策謀 十二
策 謀 十二
「そうですね。実は第一撃に、スサとヒノボリの衆の手を借ります。この時は、短時間に事を進めなければならず、どう計算しても我々の手だけでは間に合わないのです。スサの衆には、待ち伏せと奇襲で五十人、ヒノボリの衆には、待ち伏せで三十人を引き受けてもらうことになっています」
「なるほど・・・スサとヒノボリは、毒を食らうと、腹を決めたのじゃな」
タリの長はサタとキスキの顔を見た。
「儂らが手を貸す必要はないのか?」
クヒスの長が尋ねた。
「本当はお借りしたい。だが先ほども言いました通り、万一のことを考えれば俺達一族の全滅だけで終わらせたい」
「しかし儂ら森の者は、弓矢ではお前さん達より上であろう。それに射手の数が多ければ多いほど有利であろうが」
クヒスの長が畳みかけた。
「確かに言われる通りです。しかし的は獣ではなく、武器を持った大勢の人間。思わぬ所から現れて接近戦となれば、弓矢では戦えません。それにこちらが弓での攻撃しかできないと知れば、盾を使います」
「皆の衆、フツシは接近戦の訓練もしておる。儂はこの目で確かめた。数は少ないが精鋭
に育っておる。それに鏃も人殺し用に工夫してあってな、これには儂らが知恵を貸したが、距離に応じて使い分けるように準備しておる。それと、これが一番じゃが・・・全員が、人殺しをする覚悟を決めておる。中途半端な覚悟の者が手を貸しても、かえって足手まといになる恐れもある。ここはフツシのやり易いようにしてやるということでどうじゃ」
サタが長達一人一人を確認するように言った。
「サタの言う通りじゃ。儂は既に命をかけておる。いずれニタやヨコタも、横流しの疑いの目で見られる。ヨコタの山には南東の民が直接出入りしておるとの噂がある。横流しの有り無しに関係なく、その噂がオロチ衆の耳に入れば、長の命はない。儂ら山の者はフツシに賭ける」
タナブが、森の長達を見回した。
これを受け、タリの長が言った。
「状況はよく分かった・・・儂もフツシに賭けよう。テング、ナクリ、クヒスの長もその気のようだが、アビレの長はどうじゃ」
「よかろう、儂の森も賭けよう。じゃがフツシ、ひとつ約束してくれ。どうしても手が必要になった時には儂らに声をかけろ。どの森にも何人かの命知らずがおる。これだけの森に声をかければ、十人や二十人はすぐに集まる。負けて困るのはお前達だけではない」
言いながら、アビレの長はフツシを見た。
「分かりました。俺達の手が足りなくなった時には、それを伝えに行くこともできなくなるはずです。そうなると思われる場所は、グルカ砦から北東の谷。常に戦況を見ていて下さい。手を貸せば俺達が勝てる状況と見えたら、手を貸して下さい。手を貸しても無理だと見えたら、見殺しにして下さい」
日が傾き、西の山並みを覆う雲を黄金色に染め始めた。
十二人はその光に向かって結束を誓い、フツシの勝利を祈願した。