策謀 八
策 謀 八
「お前は、この地で最も力の強い王になろうとしておるのか?」
タナブがフツシの顔を見た。
「オロチ衆を倒すだけでは、必ず争いが起きます。それに、よその地の衆と争いが起きることも考えられます。そのようなことに対する備えは必要です。つまり地域内の争いと地域外からの争いを制する者がいなければなりません。オロチ衆を倒した者が、その役に就くしかないと思っています」
「タナブ、この男は儂らが知らぬ海の向こうの事情を知っておる。その上、実行する体力と、実際に動く手下も持っておる。それに・・・これが一番じゃが、若い。どうじゃ、この男に賭けてみぬか」
「サタ、お前がこの男にスサの森を賭けたことは分かっておる。ヒノボリのキスキもそうじゃ・・・よかろう、儂もヨシダの山を賭けよう」
「よし、そうと決まったら、フツから教わった固めの酒じゃ。フツシあの壺を持ってこい」
サタは小屋の隅を指さした。
ひとつの椀に酒を注ぎ、一口ずつ三人で回し飲んだ。
「ところでタナブ、ニタとヨコタの山の衆は、何か気付いておるか?」
「いや。全く気付いてはおらぬが・・・先々のことを考えると、事を起こす前に味方につけておいた方がよいな」
「なぜですか」
フツシが尋ねた。
「儂は南西の民と親しいが、ニタの長は南の民、ヨコタの長は東と南東の民と親しい。実は南東には、オロチ衆にとって代わろうとしている民がおるらしい。オロチ衆が討たれたとの知らせを聞いたヨコタの者が、事情が分からぬまま慌てて南東の民と手を結ぶと、お前はこの辺りを収めきらないままの状態で、南東の民と争うことになる」
「南東の民とは、どのような者達ですか?」
「よく分からぬが、お前達とは違う渡来の民らしい。ハガネを大量に欲しがっておるようじゃから、武器造り・・・あるいはあちらの地で、お前達と同じような事を考えておるのかもしれん。いずれにせよ大人しい民ではない」
「タナブ、ニタとヨコタの長を密かに集めることはできるか?」
サタが思案顔で尋ねた。
「出来ぬことはないが・・・ここへ連れてくるのか?」
「いや、ここはまずい。ヨコタに近い所がいいだろう」
「急ぐのか?」
「早過ぎて、万が一漏れてはならぬ。かと言って遅過ぎて、時を失してもならぬ。フツシ、いつを望む」
サタはフツシを見詰めた。
フツシは、山の衆を味方に引き入れることは考えていた。
しかしタナブの話によれば、話し合いの設営時期とその顔ぶれが極めて重要であった。
「決行日の十日前。こちらの顔ぶれは、この三人とキスキ。俺は初対面ですが、その場で固めなければなりません」
「よかろう。タナブどうだ」
「うん。それしかなかろう。フツシが二人と面識がないとなれば、儂ら三人が命を賭けたことだけが説得材料じゃ」