接見 二
接 見 二
その日は誰も来ず、翌日も、更にその翌日も、音沙汰はなかった。
与えられていた食料は底をつき、自ら採取する生活を始めた。
当初フツは、半日で帰れる行程に行動範囲を限定していた。
三日目には二手に分かれ、夕方までに帰り着ける距離に広げた。
キヌイの率いる組は、船から狼煙を見た岬のある西へ向かった。
ホキシの率いる組は、内陸と思われる南へ向かった。
(この時期は、夜明けから日没までに十時間は歩ける。片道五時間であるから、多少の難 所があっても十キロ以上先まで偵察することができる)
日暮れにはまだ時間を残していたが、二つの組は相前後して帰ってきた。
『ご苦労だったな。報告を聞こう』
安堵の表情でフツが言った。
『では、儂から話そう』
待ちかねたようにキヌイが言った
『狼煙の岬は一時間足らずの距離だ。見張りは一人。岬の付け根に川が流れ込んでおり、その周辺の平地に集落がある。年寄り・女・子供も合わせれば百人以上は棲んでいる』
『見回りの男達だけではないのか』
『家族といっしょだ、あれはこの地の民だ。獣や魚を捕り、野辺で食糧作りもしているようだ』
『その先は?』
『湾を越えてしばらくは歩きやすかったが、崖が険しくなって小さな入江がいくつも出てきた。そこで南に方向を変え、手近な山に登ってみた。西も南も東も、大きくはないが起伏のはげしい山が繋がっている。次の山へ登ろうと下った谷で、面白い物を見つけてな。知らせようと引き返した』
『何を見つけた』
『緑青よ。調べてみたら銅が剥き出しになっておった』
『ほほう、海の向こうではでは貴重な銅がな・・・となると錫と鉛もあるかもしれんな』
『それも充分にあると思う。しかし、周辺には掘った形跡も、たたらの気配もない』
『通詞が大頭と呼んでいた者が、気付いていないのか?』
『儂もそれを考えた。気付いていないのか・・・他にもっと良い場所があって、あそこは手つかずなのか・・・』
『なるほどな・・・。まてよ・・・百年前に来た鉄造りが、青銅の造り方を知らなかったとしたら・・・大頭も知るはずはない。そうであれば・・・これは切り札を手に入れたかもしれんな』
フツは目を閉じ、考え込むように顎をなでた。
しかしそれは一瞬で、目をホキシに転じた。
『ホキシ、そっちはどうだ?』
『南の山を二つ越え、谷沿いに下ると、流れは川になった。川の両岸は草地で、下るほどに川も草地も広くなり、西を向いた大きな入江に流れ込んでいる。そこまで、一時間と少しだった。入江の東には集落があった、百人はいるだろうな。そのずっと東にも、入江か湖か分からんが水面が見えた。』
『そこに大頭がいる気配はあったか』
『いや、大頭が棲むような建物はなかった。土地の民の塒だけだ』
『ふむ・・・西の入江の南側はどうなっている』
『南の山からの河が、流れ込んでおるようだ』
『西の入江と、東の水面の間は、どうなっていた?』
『草原になっていたが、あれは湿地だろう』
『草原の南は?』
『森が広がっている。あの辺りにも人が棲んでいる気配を感じた。森の奥は山につながっているが、その先は霞んでいて見えなかった』
『東の水面の南と更に東は?』
『南は草地と森だ。ずっと東に白い峰が見えた』
『大頭はどこにいるのだ・・・西の入江の向こうの森か、その奥の山か、白い峰の方か』