策謀 六
策 謀 六
サタから助力の約束を得たフツシは、カラキの山に全員を集めた。
顔には塗料を塗り、被り物と防具を着けた三十七人が、戦闘態勢でサタの前に現れた。
その姿を見たサタは、驚嘆の声を上げた。
「これがお前の部下か、・・・これなら・・・負けることはあるまい。相当に鍛えたな」
「はい、実戦形式で訓練しております」
「身に付けておる物はなんじゃ?」
「防具です。急所を矢や刃物から守ります」
「なるほど・・・被り物は?」
「顔を隠して大きく見せ、相手を怯えさせるための物、顔を塗っておりますのも同じ目的」
「・・・弓の腕前を見せてもらおう」
フツシ達は、射程内の静止した的なら外すことはなかった。
しかし、動く的では、狙うべき場所を射抜ける者は、十人足らず。
場所に関わりなく、的を射抜ける者が十人ほど。
残りの者は、二本に一本あるいは三本に一本が、的を射抜く技量であった。
「たいしたものじゃ、わずか一年ばかりで、これほどにまで腕を上げておるとは・・・」
「この程度では勝てないと考えておりますが・・・たいしたものですか?」
「マコモの指導を受けたとはいえ、お前達は青銅造りの民。生死を賭けた訓練がここまで腕を上げさせたのであろうな。それだけの訓練をしておるにもかかわらず動く的を外す者は、このさき訓練を積んでも上手くはならぬ。この者達は静止した敵だけを狙えばよい。動く敵を狙わせる二十人ほどは、マコモに更に鍛えさせよう」
サタは、満足そうな表情でフツシを見た。
「できる限り矢で倒し、接近戦は最後の手段と考えております。上手くならぬなどとおっしゃらず、全員を鍛えて頂きたい」
フツシは、不満そうな表情を返した。
「わかった。心配するな。これだけの精鋭となっておれば、三百の敵に怯むことはないぞ。ところで、ヒノボリのキスキの所へは行ったのか?」
サタの表情は、いつもの長老に戻っていた。
「いえ、サタに俺達の弓を見てもらってからにしようと考えておりました」
翌日の午後、フツシはキスキの小屋にいた。
「ふむ、サタは請け負ったのだな。・・・お前達から鏃を回してもらい重宝しておるが、いずれ奴らに気取られる時が来る。儂の手の者は、大砦からキルゲ砦への道の三十人を始末すればいいのだな。・・・よかろう、引き受けた。ところでアシナの娘の件はどうなった。上納の代わりに娘を連れて行くのは、収穫の宴の前だぞ」
「酒造りにはあの夫婦が必要ですから、夏から親娘三人をこちらに来させます。いなくなったことにオロチ衆が気づいても、探索を始めるのは例年宴の後。事は終わっております」