策謀 四
策 謀 四
カラキの山で全員を引き締めた時のフツシは、修羅と化していた。
この二年の苦労を無駄にしたくないという気持ちと、誰一人死なせたくないという気持ちがフツシを追い詰めていた。
集まりを解いた時、夜は深更に及んでいた。
各自を塒に引き上げさせたが、フツシは眠気を感じなかった。
一人作業小屋の竈の火を見詰めるフツシの隣に、ツギルが戻ってきた。
「フツシ、まだ時間はある。緻密に策を練れば勝てる・・・できれば誰も殺したくない気持ちは分かる。俺も同じだ・・・奴らは、これまでに多くの地の民を殺してきたことから何も学んではいない。これからも学ばないだろう。ということは、これから何代も同じ事を続ける。それを止めるには、俺達が考えている方法しかない」
「俺達と同じような年頃の者があれだけいて・・・親父達のやり方を変えようと考える奴はいないのかな?」
フツシは竈の火を見詰めたまま、独り言のようにつぶやいた。
「頭達の息子全員が、そう考えれば変わるかも知れない。しかし、一人や二人ではできないだろう。兵士の身内に何人もいたとしても、無理だろう」
ツギルはフツシの横顔に答えた。
「あいつらも敵に回して・・・敵は全部殺らなきゃ、終わらないな」
フツシは竈の火から目を離さず、やはり独り言のように言った。
「それが分かっているからお前は、みんなにではなく、自分に言い聞かせていた。あれでよかった。みんなも吹っ切れた。だが、今日のような姿は二度と見せるな。頭のお前が一人だけ浮き上がって殺気立っていては、戦いの指揮は執れない。お前は常に冷静な状態でいて、みんなを状況に合わせて駆り立てたり、押さえたりしなければならないのだぞ」
言い終えると立ち上がり、ツギルは小屋を出ていった。
翌早朝、若者達はそれぞれの持ち場へと雪の残る山道を下って行った。
フツシと四人の手下達もその中にいた。
河口の山裾でヒノボリ組は東へ向かった。
その山裾を廻った所でムカリ組が山に入り、フツシ達は南のスサの森へ向かった。
途中アカリともう一人がメキト砦のある谷に消え、二人だけとなった。
「夕べの俺は恐ろしかったか?」
フツシは白い息を吐きながら後ろを歩くウツキルに声をかけた。
「少し・・・でも、もっと弓の訓練をしようと思った」
「そうだ。お前は弓の名人になればいい。遠くからでも、動く相手を確実に仕留められるようになれ。敵が横を向いていたら耳を射抜け」
「前からなら?」
「目を射抜け。躰なら心の臓だ、熊を開いた時に見ただろ」
「うん・・・後からは?」
「心の臓を裏側から射抜けばいい。」
「それだけ?」
「それだけを射抜けばいい。他を狙う必要はない、矢が無駄になる」