策謀 三
策 謀 三
若者達が山を仕切るようになってから、二度目の新年の祭り事の日が来た。
シオツの集落は活気に満ちていた。
男達の誰もが、この年の秋の決行を思い、気を高ぶらせていた。
宴の翌日、瓶六個の酒を大砦に届けたが、この日のための酒は充分に残してあった。
若者達の酔い騒ぐ声の中にいながら、フツは酔えなかった。
・・・来年のこの日に、顔を見ることが出来ない者がいるかもしれない。
フツの気持ちを察したのか、ホキシがフツの椀に酒を注ぎながら言った。
「余計なことを考えるのは止めよう。若い奴らがやり易いようにしてやるのが儂らの勤め」 ホキシの顔は笑っていたが、目には笑いがなかった。
そこへキヌイが加わった。
「フツ、失敗は無しじゃ。全員戻ってくるかどうかは別じゃが・・・夏までに、年頃の奴らには嫁を取らせておこう。全員の子種を残しておかねばならんでな」
「万一帰らぬ者がおっても、そ奴の子が残るということか・・・うん、キヌイの言う通りじゃな。負けは無しじゃ」
「そうじゃ、若い奴らと飲もう。な、ホキシ」
三人は立ち上がり、若者の中に紛れ込んでいった。
カラキの山の作業小屋に、若者全員が集まっていた。
この年二十歳になるフツシを始め全員が、一段と精悍になっていた。
夕餉の後、フツシが立ち上がった。
「みんな、この秋の宴の日が全てだ。この二年密かに準備してきたが、今日から決行の日までに悟られれば、全てが水の泡となる。これまで以上に慎重になれ」
フツシは一人一人の顔を見つめながら続けた。
「去年の宴に潜り込んだ者は見たはずだが、大砦には俺達のような者が二百人はいた。そ
の中にはお前達の友達もいる。計画では、殺るのは頭や 小頭と兵士達だけと考えている。しかし兵士が殺られて人数が減れば、あの連中が補充されるだろう。中には友達もいるかもしれない」
「友達も殺るのか?」
イトの声だった。
「補充が加わるのは、東北の谷に入ってからだろう。そこでは、できる限り弓の狙撃で組頭を狙うが、一日目は一矢一殺を優先するから、射程に入っていれば相手は選ばない」
「だから、友達も殺るのか?」
再度イトが尋ねた。
「敵は、俺達を殺しに来るのだ。友達だと気づき躊躇すれば、躊躇した者だけではなく仲間全員が殺られる。襲撃が始まった時から、オロチ衆は全て敵だ。海辺の者も含め、俺達全員が殺られるか、刃向かうオロチ衆全員を殺るかだ」
フツシはイトを見て言った。
「頭は、指導者を倒し、兵士が戦意を無くせばいいと言っていたではないか」
ウズミが声を上げた。
「確かにそう言った。しかし宴に集まった者を見て、その考えが甘いことに気付いた。残った兵士が戦意を無くしても、それまでに何人もの兵士を殺っている。頭や 小頭もだ。そいつらの身内はどう思うかな?目の前で身内が俺達に殺られたのだぞ、その恨みは必ず残る。俺達が、地の民や俺達にとって正しいことをしたと考えても、殺られた者の身内は、富を奪われ家族を殺られたと考える」
「フツシの言う通りだ」
ツギルが引き継いだ。
「お前達が友達になった砦の連中は、裏切られたと思うだろうな。補充の兵士となって、俺達を八つ裂きにする気持ちで追いかけてくるはずだ」
もう声を発する者は無く、小屋の中に重い空気が満ちた。
それを打ち砕くようにフツシが力強く言った。
「俺達に刃向かってきた者は全て殺す。怯むなよ。怯めば殺され、近くの仲間も殺される。俺達は数が少ない。一人でも仲間が減ればそれだけ不利になり、この計画は失敗する」