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スサノヲ  作者: 荒人
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密造 六

密  造 六  


 ホキシはフツシを伴い、酒の瓶をキスキの小屋へ運び込んだ。

「この森の実とあの夫婦のお陰で、今年の酒は上出来ですぞ」

「そうか。では・・・これは旨い」

「この瓶とは別に、大瓶一つお持ちしました。祝い事には皆の衆にも振る舞って下され」

「うん。あちこちの衆にも届けるのであろうが、必要なだけ出来たかな?」

「お陰様で何とか揃いました。儂らの上納として、オロチ衆にも届けます」

「欲深なオロチ衆のこと、全部出せと要求するぞ」

「ですからこうして縁戚を結んだ衆へ、先に届けております。シオツに祭り事用に残し置きますので、要求されればそれを出すつもりでおります」

「ところで、あの夫婦に造り方を伝授してくれたか?」

「一度で全てを会得するのは無理です。もう一度体験すれば、二人でできましょう」

「ホキシ、あの夫婦とは誰のことですか」

 それまで黙って控えていたフツシが尋ねた。

「おう、お前に話すのを忘れていた、オロチ衆に娘を七人も盗られた者達じゃ」

「その夫婦は、儂がホキシに頼んだのじゃ。来年には、最後の一人になった娘も差し出せと要求されるじゃろう。それを何とかできぬものかと悩んでおる」

「サタからそのようなことがあると聞いてはおりましたが・・・その夫婦はどこにいるのですか」

「ヨコタの山裾の明地におる。フツシ、何か良い手立てを考えてくれ」

 


 ヨコタの山は深い。

鉄衆はその奥深いところで、鉄砂を掘り、砂鉄にし、たたらを営む。

たたら場と鍛冶場には渡来の民がいるが、鉄砂掘りと砂鉄採りは、野辺から無理矢理連れてこられた地の民であった。

キスキが言った夫婦は、山の手前の僅かな明地で、採取の生活をしていた。


「俺はフツシ、キスキから聞いて来た。酒造りを仕切ったホキシは、親父の仲間だ」

 最初オロチ衆が来たと怯えていた夫婦は、フツシの話を聞いて安堵の表情を見せた。

「儂はアシナといいます。(かかあ)と娘の三人で暮らしておりますが、キスキからお聞きの通りです。儂らは、娘をオロチ衆の餌食にするために育てているようなもの・・・」

「その娘子は?」

「オロチ衆が来たと思い、裏の藪に身を潜ませております」  母親が娘を連れて来た。

顔も手足も薄い褐色で、泥にまみれており、髪も着る物も、男の姿形をしている。

驚いた表情をしたフツシを見て、アシナが言った。

「この娘は今年で十五歳ですが、これまでずっと男の姿形をさせてきました。色白なので、顔や手足に木の汁を塗り、この様な肌の色にしております。しかし年頃になれば体つきでばれるのは時間の問題でございます。来年オロチ衆が上納を要求に来た時には、隠し通すことは無理だろうと心配しております」  

 フツシは娘の顔をじっと見た。

薄汚れた面の後に、聡明な輝きを持つ瞳と、忍耐強さを表す口元が見て取れた。

娘の眼差しに怯えは無かった。

「名は何という」

「イナタです」

 落ち着いた、よく通る声が返ってきた。

「今年の上納の要求はいつ来た?」

 フツシは、アシナを振り返って尋ねた。

「一昨年、上の娘を連れて行きましたから、今年は来ておりません。オロチ衆も儂らの所に取り上げる物が無いのは知っており、娘を連れて行くと、二年は目こぼしをしてくれます」

「では来年は間違いなく来るのだな。しかしこの娘を男だと思っていたらどうなる?」

「男だと山へ連れて行きます。その時どのような仕事をさせようかと、足腰や肩の肉付きを確かめます」

「なるほど、姿形を男にしていても、時間稼ぎにしかならないというのはそのことか。

なぜこの地を離れて森の衆の所へ逃げ込まない?」

「山の中には儂らの身内がおります。儂らが姿を消せば、身内がひどい目に遭います。それに、森の衆の所へも探しに行きます。万一見つかれば森の衆にも迷惑がかかります」


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