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スサノヲ  作者: 荒人
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密造 五

密  造 五


 カラキの山で本格的な訓練が始まった頃、ヒノボリの森では、ホキシが木や草の実集めを指導していた。

ホキシは、シオツとヒノボリを行き来する間に、ダキル砦や大砦脇ではなく、東の山裾を回る迂回路を発見していた。

この道を使えば、シオツとヒノボリの者達の交流が、オロチ衆の目に付くことは無かった。

今回のヒノボリ訪問は酒造りのためであり、材料集めの人手として、嫁とシオツの娘や子供十数人も連れてきていた。

彼らがヒノボリの女子供の指導役となり、山葡萄、桑の実、ぐみ、山法師の実などを集めた。


 ヒノボリの(おさ)キスキは、酒造りの手伝い責任者として、老夫婦をホキシに引き合わせた。

「これは哀れな夫婦でな、元々はこの辺りの野辺の衆じゃった。オロチ衆に集落ごとヨコタの山に連れ込まれたが・・・仕事が性に合わんでのう、たたら場を出て、山裾の明地で野辺仕事をしておる」

「そのような話、フツシがサタから聞いたといっておりました」

「おお、そうか・・・この二人にはなぜか男の子ができぬでな・・・次は男か、次は男か、と産むうちに、娘が八人になってしもうた。たたら場を出た者にも、オロチ衆は上納を求める。しかし山の中の狭い明地、食うが精一杯で上納など無理じゃ。そしたらオロチ衆は、娘に目を付けてな・・・年頃になると無理矢理連れて行き、今残っているのは一人だけになってしもうた」

「七人も娘を盗られたのですか」

「そうじゃ七人・・・来年にはこの末娘も年頃になる。二人は、この娘までも連れていかれるのではないかと心配しておる。いい方法はないかと儂の所に相談に来て、お前達の姿を見かけた。大勢来ておるが何事だと聞かれたもんで、説明してやった。そうしたら、草の実のことなら任せてくれと言ってな。この二人を使ってくれ・・・それに何かいい案がないか考えてみてくれ」

 夫婦は山間の狭隘な地での生活により、採取の手際に長けていた。

地形や陽当たり具合により、実のなる植物の群生を見いだす術も身に付けていた。

この地で生まれ育った者でもあり、野山の事情も熟知していた。

 ホキシは、二人に酒造りに適した場所を探させた。

実の採取場所に近く、人目に付かず、風が通らず、日も差さない暖かい窪地を求めた。

二人はホキシを、森はずれの谷へ案内した。

この谷を取り囲む山の裾には、山葡萄が豊富だった。

谷の南の山中に、ホキシの求める場所があった。



ホキシの酒造りが始まった。

まずかねてから用意しておいた大瓶を、酒造り場に据えた。

そこへ収穫した実を集め、よく熟した山葡萄を手でつぶして、瓶の底に敷く。

その上に桑の実や、ぐみ、山法師の実などをつぶして敷く。

更にその上に山葡萄を敷く。

この様にして何層もの実を瓶の七分目まで敷き詰め、蔓や大きな木の葉で蓋をする。


 瓶二十個を仕込み終えるのに五日かかった。

仕込み終えてから七日を過ぎると、瓶の蓋が大きく盛り上がり、甘い香りが漂い始める。

更に二日経つと蓋は完全に押し上げられ、半乾きの潰れた実が溢れ出てくる。

ホキシは溢れた実を取り除き、蓋をし直す。

翌日にはまた蓋が押し上げられている。

この作業を三日も続けると、せり上がりは止まる。

そこで中の実をざるで掬い出し、瓶の中を液体だけにする。

この段階で酒となっており、飲めば相当に酔う。

しかし芳醇さはまだ無い。

液体だけとなった瓶に蓋をして、十日ばかり寝かせる。

この頃になると辺り一面が香りで満たされ、それを嗅ぐだけで酔う者もある。

気温にもよるが、概ね仕込み始めてから二十五日程度で、酒の上部五分の四は透き通り、底部五分の一に(おり)が溜まる。

透き通った部分を静かに汲み上げ、別の大瓶に移す。

これで出来上がりだが、更にひと月寝かせる。

それによって、味と香りに、深みとコクが加わる。

この年は実がよく熟しており、気温と湿度がほど良い状態であったのであろう、例年より甘く強い酒ができた。


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