接見 一
接 見 一
高台に残されたのは、食料と小さな焚き火、そして石斧と貧相な鉄製の鉈が二本ずつ。フツ達が辰韓から運んだ物は、何一つ無かった。
全員が疲れ果てていた。
『みんな、いつまでここに留め置かれるか分からぬが、塒だけは作っておこう』
フツは疲れを振り切るように切り出した。
『儂は、クツリを連れて地形を調べてくる。キヌイ、竈を作ってくれ。ホキシ、木を切り出してきてくれ』
金堀り小頭のキヌイは、弟子のヨモリとツモリを伴い、竈を据える適地を物色し始めた。彼らの仮塒は、竈を中心とする。
竈から三歩ほど離れた所に、身長よりやや高い柱を数本立てる。
更に各柱の外三歩の所に、その半分の高さの柱を倍数立てる。
内柱、外柱とも、その上部を横木でしっかりと固定し、横木に屋根垂木を架け渡す。
この屋根垂木に、横桟をくくり付け、その上に広い葉を付けた小枝を何層にも葺く。
放浪を常とするフツの集団には、材料さえ揃えば手慣れた作業である。
竈の周りに、ホキシ達が集めてきた木々が、用途に分けて積み上げられ始めた。
この状況を見たホキシが言った。
『カナテ、儂は木組みに取りかかる。柱材はもう足りそうだから、屋根葺き用の材料を調達してきてくれ』
陽の光はもう殆ど無いが、彼らは夜目が効く。
フツが帰ってきた頃には、既に屋根葺きが始まっていた。
『早いな。もうここまで出来たか』
『頭、ここは急斜面が多く足場は悪いが、木は豊富だ』
カナテが答えた。
『ふむ、今日はここまでにしよう。飯を食いながら、見てきた地形を説明する』
上陸後の食料で一息付いていたので、誰もが食う事よりフツの報告を望んでいた。
『この高い崖の向こうには、山が続いている。狼煙を上げたのは崖続きの岬の先で、通詞達が行った道はそこへ通じているようだ。岬の裏の山向こうに、何本もの煙が上がっていた。かなりの人数が棲んでいるようだな。カナテが言ったように、この地はどこまでも木で覆われている。遠目でよう解らなんだが、鉄炭の木も十分にあるはずだ。明日にはもっといろんな事が解るだろう』
間近に波の音が聞こえていたが、不動の大地での眠りは快適だった。
長旅と未知の民との接触で疲れていたが、不安と緊張がそれに勝っていた。
一重しか葺いてない屋根から陽が差し込み始めた頃、全員が目覚めた。
高台から眺める海は美しい。
海岸近くでは、海底は透明の淡い緑に覆われている。
沖に行くに従って緑は深みを増し、碧いうねりとなって空まで続く。
・・・もう帰れない。
誰もが絶望と希望を感じていた。
そんな感傷を打ち破るようにフツが言った。
『今日は塒を完成させ、ホキシは食糧調達と周辺調査をしろ。キヌイは、道具になりそうな石の調達と地質を調べろ。全員、陽が真ん中に至る時には帰ってこい。儂はここで通詞を待つ』
キヌイ達が、蔦で作った背負子で石や棒を背負って帰ってきた。
『頭、運んだ道具は取リ上げられたが、当座しのぎの道具は何とかなりそうだ』
キヌイが安堵の表情で言った。
『地質はどうだ?』
『ここには鉄っ気は無い。もっと奥に行ってみなければ・・・』
『そうか、だが長に会うまでは迂闊な動きはするな。当分は道具造りに精を出せ』
『頭、ここは食い物の宝庫だ。冬を越してはいるが、そこら中に食える木の実が落ちている。鹿や猪もいる。罠と弓矢を作ろう』
ホキシ達も、木の実を満載にした籠を担いで帰って来た。
『罠はいいが、弓矢は・・・土地の民の誤解を招いてはならぬ。いつでも作れるように、材料は集めておけ』