密造 四
密 造 四
暗い森の奧の沢を遡ったところ、そこがフツシ達の仕上げ場兼訓練場となっていた。
カナテは、オロチ衆が持つ槍をまねたもの数本を造った上で、それにまさる鋭利で長い穂先を考案してくれた。
槍の全長を同じにしても、戦闘力は遙かに高かった。
フツシ達は柄の長さを色々工夫し、力で負けても技で勝つ工夫を繰り返した。
槍の訓練では、無駄な動きをせず相手の急所を狙うことに集中した。
森の中での戦いには、柄の長い槍は適さない。
そこで柄を短くした槍も用意することにした。
訓練をするうち、茂みの中での戦いには、短い槍も普通の長さの剣も使い勝手が悪いことに気付いた。
そこで小刀よりは長く普通の剣より短い、独自の剣を造ることにした。
小回りが利き、木の葉や小枝越しに斬りつけても深く食い込むように、肉厚の両刃に仕立てた。
実戦を前提とした訓練を重ねることにより、怪我の頻度も増した。
彼らの狙いは急所であり、受けが甘かったり逃げそびれた時には、寝込むほどの深手を負うこともあった。
怪我人を手当てしていたツギルが、フツシを呼び寄せた。
「フツシ、よく見てくれ。毎日怪我人が出るが、みんな同じような所をやられている。そこを硬いもので覆っておけば、受けそびれや逃げそびれがあっても、これほどの怪我にはならないだろう」
「そうだな・・・躰を獣の皮で覆い、その皮に鉄の板を貼り付ければ、打ち身程度で済むな。作ってみるか」
早速防具の工夫が始まり、必要と思われる部位に鉄板を取り付けたものが出来上がった。しかしそれを着けてみると、重すぎて動きが鈍くなる。
そこで急所だけを鉄板で覆い、それ以外は皮を幾重にも重ねる形にしてみた。
これだと軽くなり、普通の動きができる。
防具を着けることにより、彼らの訓練はより実戦に近づいた。
同時に防具の改良も行われ、こちらも実戦向きのものへと改良されていった。
「ツギル、相変わらず怪我はするが、前よりはずっと軽くなった。防具はよかったな」
訓練を見ながら、フツシが言った。
「うん・・・なあフツシ、防具を着けてるとみんな躰が大きくなったように見えないか。十二歳組でも身長のある奴は、遠目からは十七歳組と変わりない」
「なるほど・・・。顔はガキだが、肩幅をもう少し広げて腕を太くすれば・・・見分けがつかなくなるな」
「だろう。俺は接近戦になった時、俺達の顔を見た敵が強気になるのではないかと心配している。奴らは兵士で、それなりの経験を積んでいるだろう。弓の奇襲で怯えさせただけに、相手がガキだと知って余裕を取り戻されるとやっかいになる。防具で躰を大きく見せて、頭にも何かかぶせて、顔が分からないようにすれば・・・」
「ツギル、顔に何かを塗って、歳が分からないようにしよう。その上に頭から顔を覆うものを着けさせよう。」
「また獣の皮で作るか・・・軽いものがいいな」
ツギルは熊や猪の毛皮で、頭から両頬を覆う戦闘用の被り物を作り出した。
着けさせてみると、耳は出しておいた方がいいということになり、穴をあけた。
防具を着けた上にそれを被ると、頭部が三回りほども大きくなり、遠目では十二歳とは見えない戦士となった。
顔に塗るものは、獣の脂肪に木の葉を磨り潰したものを練り込み、緑の塗料を造った。
赤い実の皮から、赤の塗料ができた。
フツシは、その場にいた者達全員に被り物と防具を着けさせ、塗料を顔に塗らせてみた。武器を持ち勢揃いした姿は、これまで誰も見たことのない異様な集団となった。