密造 三
密 造 三
カラキが差配する仕事場の山を、若者達はカラキの山と呼ぶようになっていた。
そのカラキの山に、大量の砂鉄が運び込まれた。
これまでにも少しずつ運び込み、密かに鉄造りをすることはあったが、試作の域を出なかった。
この地に渡って以来初めての本格的鉄造りに、若者より大人達が緊張していた。
この日のために大量の炭が用意されており、炉造りも終了していた。
「いいか、これから三日の徹夜作業が続くが、みんな抜かるなよ」
赤い炭火に照らされたフツの顔は、シオツの塩作り爺さんから鉄衆頭に戻っていた。
大人達は、二十年の空白など無かったように動いた。
誰言うと無く、若者達に青銅造りとは勝手の違うところを教え、実際にやらせて若い躰にたたき込む。
炉の底のケラ(鋼の固まり)の状態と炉の側壁を交互に見つめていたフツが、風の道を塞ぎ、操業の終了を命じた。
大人達は炉を壊し、真っ赤なケラの固まりを引き出した。
「ここからは鍛冶組の腕の見せ所だ。森の衆と、うちの若い者達が喜ぶ品を頼むぞ」
フツが、カナテに大声をかけた。
フツシ達が最も大量に必要としたのは鏃だった。
最初の襲撃では、サタの手を借りて百五十人の兵士を一矢で仕留める戦法を考えていた。
ここで必要なのは近距離用の殺傷力の強い矢である。
そのための鏃を、三倍の四百五十個想定した。
翌日からの戦いでは、残る百人に様々な距離から奇襲をかける。
最初の待ち伏せは、近距離用の残りで間に合う。
しかしその後は、長距離用が主流となるはずである。
残る兵士を七十人と想定し、一人に十本必要と考えて七百本用意することにした。
「カナテ、近距離四百五十個と遠距離七百個お願いします」
フツシは、ケラの選り分けを指示するカナテに後ろから声をかけた。
「予備は計算してるだろうが、訓練用は入ってるのか?」
カナテはケラに顔を向けたまま尋ねた。
「訓練はいま使っているので充分かと思い、入れてません」
「物事は計画通りにはいかんぞ。誤算続きでも慌てないようにするには、実戦を想定した訓練の繰り返ししかない。近距離六百、遠距離千にしておこう。仕上げは自分達でしろよ」
「分かった。でも俺達にそんなに使うと、森の衆の材料が足りなくなるのでは?」
「これだけのケラだぞ、お前達の鏃などほんの一部だ。森の衆にも充分に行き渡るから心配するな。それより、接近戦の戦い方と武器は考えているのか」
「接近戦ですか・・・いえ、考えていません」
「最初は酔っている相手に躰を寄せて襲うから、鋭利な小刀が必要だ。これは全員が何本か持っているな。」
「はい」
「次は、砦への帰りを待ち伏せ、弓で襲うんだな」
「そうです」
「それから谷に逃げ込み、奇襲作戦。ここでも弓だ」
「そうです」
「問題はその後だ。奴らも馬鹿ばかりではないから、策を考えてくるはず」
「そこなんです。どの様な策を考えてくるか分からないので、遠くからの狙い射ちに徹するつもりです」
「さて・・・遠射がどれだけ有効かは分からんぞ。盾を使えば防げるからな。接近戦なしで終わるとは思えん・・・やはり槍を用意しておこう」
「槍ですか・・・使ったことがない。誰かに教えてもらわなくては」
「何を心細い声を出しておる、今から訓練すれば間に合う。奴らの持つ槍より鋭くて強いものを造ってやる」