密造 二
密 造 二
「おい、大丈夫か?」
ツギルだった。
「アカリがすねを折ったが、大丈夫だ。お前一人か・・・相方は?」
言いながらフツシはツギルの筏を見た。
「アスキの筏に置いてきた。仲間一の力持ちでも、あの岩場から出るのは一人じゃきつい」
「そうだな。アカリの足を何としなければ・・・添え木が必要だ。おう、あの岩にひっかっている枝が丁度いい」
フツシは少し離れたところの岩に引っかかっている枝を指さした。
「俺がとってくる」
言うなりツグヒが飛び込んだ。
フツシとツギルは、痛がるアカリのすねを伸ばし、添え木を当てた。
その上で荷の上に座らせ、崖から垂れ下がっていた蔓で固定した。
この間に三台の筏が流れて行った。
「アスキは遅いな・・・岩から抜け出せないのかな・・・」
ツギルがフツシを見た。
「荷を捨てれば簡単だろうが、あいつはそんなことはしないだろうな・・・」
フツシもツギルを見た。
「二人で崖伝いに行ってみるか?」
ツギルが再びフツシを見た。
その時、仁王立ちのアスキを乗せた筏が流れてきた。
「遅かったな。無事か?」
ツギルが声をかけた。
「ああ、平気だ。岩から外すのに手間取った。アカリは?」
「すねを折ってる」
フツシがアカリを振り返って答えた。
「おい、アカリ。荷物にされたか。ちゃんと運んでやるから、我慢しろよな」
「大丈夫だ。だけど、さっきみたいな所がまだあるのか?」
アカリが痛みをこらえて応えた。
「もう一ヶ所ある。な、フツシ」
アスキがフツシを見た。
「うん。だか今度のは合流する前に蛇行してて、合流してからはほぼ真っ直ぐだ。だからさっきのようなことはない。それを越えたら楽なものだ」
「フツシ、油断はできんぞ。その次の合流点は大砦の横、そのすぐ先にダキル砦が控えてるからな」
ツギルが戒めた。
「それはそうだが、砦と流れはかなり離れてる。月夜なら見えるだろうが、今夜は物音さえ立てなければ気付かれることはない。そろそろ行こうぜ」
アスキが言い放った。
三台の筏はツギル、フツシ、アスキの順に流れに出た。
間もなく大きな蛇行に差し掛かったが乗り上げるような岩は無く、崖に突き当たる程度で乗り切れた。
二つ目の合流点を過ぎて小さな蛇行が終わったところから、流れの左右は砂になっていた。それに乗り上げるような形で先行の筏が固まっていた。
「遅かったじゃないか。あの曲がりで手間取ったか」
言いながらムカリは、荷にくくりつけられたアカリに気付いた。
「どうしたアカリ」
「あそこで流れに放り出されて、すねを折った」
アカリが力のある声で答えた。
「他に怪我人はいないか」
フツシがムカリを見た。
「みんな擦り傷や打ち傷だらけだが、たいしたことはない。早くアカリの手当をしなければならんな。すぐに行こう」
ムカリが言った。