密造 一
密 造 一
あぶら蝉の声が梢を埋め尽くす暑い午後、サタの小屋にヨシダから来た男が座っていた。
「サタよ、頼まれたものが揃ったぞ。言われた通りの大きさにして、百包じゃ」
「おおそうか、予定より早かったな・・・いつでも出せるな」
「川沿いの薮に隠してあるから、すぐ積み込める。日取りが決まれば、それに合わせて筏を組む」
「五日先が次の新月じゃ。その日が良かろう」
「勝手に決めていいのか?」
「向こうは待っておる。・・・ひと筏にいくつ乗せられるかの?」
「筏を大きくすれば乗せられる数も多くなるが、流れの幅を考えると小さめがいい。ひと筏に十包なら無難じゃ」
「ということは十筏、乗り手は二十人じゃな」
渓谷の大きな淵に、筏が固まっていた。
淵を出ると、流れは高い崖に沿って西へ大きく曲がっている。
曲がり終えると当分真っ直ぐになるが、その東には流れを見下ろすようにトルチ砦の櫓がそびえている。
陽は既に落ちており、見張りの交代も終わっているはずだ。
「もういい頃だ、流れに出るぞ。いいか、流れは徐々に西に向かい大きく東に曲がる。曲がりきるまで、何があっても声を出すな」
フツシはそう言い残すと竿を押し、筏をぐいっと流れに乗せた。
間もなく筏は崖に沿って曲がり、見えなくなった。
それを見て次の筏が流れに出た。
月のない夜であったが、夜目の効く彼等にとってさほど難儀な仕事ではなかった。
幸いにも、トルチ砦の西の流れは直線で幅も充分にあったので、何事もなく通過することができた。
東に大きく曲がった流れは、小さな蛇行を何度か繰り返しながら東からの別な流れと合流する。
そのあとすぐに、急激に西へ曲がり、再度急激に東に曲がる。
ここが最初の難関であった。
流れの幅は狭くはなかったが、合流点から速度は増している。
砂鉄を積み重くなった筏の惰性は、竿を操る者の力をしのいでいた。
東に曲がるところで、先頭を行く筏が流れの西の岩に乗り上げた。
竿を使って流れへ押し出そうとしているところに、ムカリの二番筏がぶつかり止まった。しかしすぐに、二番筏は、流れに押されて回転を始めた。
その回転を利用し、二台の筏の四人がかりで流れに乗せた。
二番筏は前後を逆にして下り始めた。
そこへ今度は、三番筏が突っ込んできた。
二番筏同様に、回転を利用して流れに乗せた。
四番、五番筏と続き、押し出し役のフツシと相方のアカリはふらふらになり始めていた。
そこへアスキの乗る六番筏が突っ込んできて、アカリが流れに放り出された。
咄嗟にアスキは、相方のツグヒに怒鳴った。
「ツグヒ、アカリを助けろ」
ツグヒは、流れに飛び込んだ。
フツシは筏が回転を始める間に、アスキに状況を説明した。
「分かった。俺が残るからこちらに乗り移れ、二人を拾って最初の淵で待っててくれ」
言いながら、アスキが一番筏に乗り移って来た。
フツシは、流れに出かかった六番筏に飛び乗った。
緩やかになった流れに目を凝らしながら、フツシは二人の名を呼んだ。
程なくツグヒの声が返ってきた。
「ツグヒ、どこだ。俺が見えるか」
「こっちだ。流れの東、アカリもいる」
声の方に筏を寄せると、小さな淵の崖下の岩にしがみついている二人が見えた。
「見えたぞ。そこに寄せるから岩の向こうに回れ」
アカリは放り出されたあと岩に足を挟まれ、すねを骨折していた。
ツグヒが淵に誘導していなければ、今頃どうなっていたか分からない。
二人を筏に引き上げたところに、乗り手が一人の筏が寄ってきた。