訓練 九
訓 練 九
戦いの基本的な形が決まり、あとは全てが計画通りに行くよう訓練をするだけとなった。まず用途に応じた弓矢の作り方を学び、訓練を始めた。
一矢必殺が絶対条件であるから、練習であるにもかかわらず一射一射が真剣勝負であった。生きた的の手応えを実感するため、猪、鹿、熊といった大型の獣狩りに頻繁に出かけた。鏃の研究にも余念がなかった。
その破壊力の大きさと、命中率の高さは、サタを驚かせた。
指導者がいないため、最も苦心したのが襲撃組の訓練だった。
ひと刺しで人を殺すには、どこを刺せばいいのか。
誰も、皆目見当が付かなかった。
この難問に答えを出してくれたのはマコモだった。
狩猟の民は、倒れてはいても生きている手負いの獣に、とど止めを刺す。
その場所が急所だと教えられた。
大量の血が出ても構わない場合はここ、多少の血が出てもよければここ、なるべく血を漏らしたくなければここと、仕留めた獣で教えてくれた。
獣と人間が同じとは限らないが、皮を剥ぎ肉をめくり、急所の内部や血を巡らす管がどのようなものか確かめもした。
マコモは、死にはしないが走れなくなる、後ろ足の急所も教えてくれた。
その急所を射て捕らえた鹿の首を斬り、返り血がどのようなものか、更には心の臓や肝の臓と言われる急所への深い一刺しも、血まみれになりながら体験した。
当然のことながら、使用する刃物の研究も熱心だった。
狙う場所により、長さや刃の幅、その付け方に工夫を凝らした。
各自が、手の大きさや動きの特徴に合わせ、最も使い易い形を編み出した。
前・横・後、それぞれの位置から襲うことを前提に、とっさに懐の刃物を握るまでになった。
攻撃担当は、狙う小頭とその頭、更に組頭の顔までも頭にたたき込み、薄明かりでも間違えないようになっていた。
連絡役は、大砦に行く回数を増やした。
しかし、大勢の若者に紛れ込むことにより、誰も気にかけなかった。
彼らは、どこで襲撃しても速やかに誘導する最短の道筋を、暗闇でも走れるまでに熟知していた。
フツシ達全員にとって、情報と訓練が生死につながる。
最年少の者達もそれを理解しており、弱音を吐く者は一人もいなかった。
むしろ希望に燃えていた。
訓練のために何匹もの獣を殺した。
その獣ですら、死の瞬間の瞳は悲しかった。
これが人間の場合、俺達は耐えられるだろうか。
フツシは何度も自問した。
・・・大勢の人を苦しみから解放するために殺す。それを実行する俺達が、生き残るために殺す。しかし殺される者にも家族や友人がいる。その家族や友人は、俺達をどう思うだろうか。
フツシは、この疑問が生じたところで考えることをやめる。
やめるのであって、答えを見い出したのではない。