訓練 八
訓 練 八
「よし、ツギルの戦法で行こう。しかし、生き残った組頭が多いと考えておいた方がいいだろう。奴らは何を考えるだろう」
フツシは思案顔でツギルを見た。
「生き残った連中がどう考えるか・・・欲の深い奴らのことだ、取り分が増えると喜んでいるかもしれんな」
ツギルも思案顔で答えた。
「態勢を立て直すために引きあげるなら、どの砦に帰る?」
フツシが腕を組んだ。
「財宝が一番多い、大砦に決まってるさ」
カラキが断言した。他の者達も同意の表情をした。
「そうか、欲の深い奴らだったな・・・奴らは砦に帰って何をする?」
「まず大砦にある全ての物の取り合いだな。次に兵士砦と鉄衆監視砦、それから毎年集まる上納の分配争いが起きる」
カラキが当然のように言った。
「攻撃を仕掛けた俺達のことを考えないのか?」
フツシがカラキを見た。
「分配争いが始まる頃に思い出すだろう。俺達を生かしておけば上納が集まらないと気付いてな」
カラキはツギルに同意を求めた。
「大方そんなところだろうな・・・問題はそこからだ。奴らを東に引きつけるには・・・」
ツギルも腕を組んだ。
「おい、グルカ砦を襲おう」
アスキが大声を出した。
「なるほど、奴らの分配品か」
カラキが相づちを打った。アスキは続けた。
「砦に残っているのは女子供と老人だ。奴らが欲しがりそうな物と食糧を奪って、ヤツミの言う谷に逃げ込む。女も何人か連れ去る」
「女を連れ去る?何を馬鹿な、それではオロチ衆と同じではないか」
フツシが怒気を含んだ声で言った。
「違う、大砦にグルカ砦襲撃の知らせが伝わってから連中がグルカ砦に来るのに、半日はかかる。俺達が谷に逃げ込んだと分かっていても、警戒してなかなか踏み込んでは来ないだろう。だから適当な所に中継地を作っておき、奪った物と女を運び込む。構えも見張りもいい加減にしておき、女が逃げ出すようにする」
「分かったぞアスキ、逃げた女の知らせで奴らが谷を襲うように仕向けるのだな」
カラキが言った。
「そうだ。しかしそこで全員を逃がすのではない。俺達は慌てて残った女と奪った物を更に奧の中継地に運び、そこでも女を逃がす」
「アスキにしては上手い策を考えたな。奴らをできるだけ東におびき出し、生きて谷から出られないようにするということだな」
フツシが納得し、続けた。
「女や食糧が奪われたとなれば、二度と襲われない方法を考える。答えは、俺達の皆殺しだ。そのためには全員で来る。ヤツミ、谷の向こうは森で、その先は草原だったな。谷から森の間で奴らを全滅させるには・・・やはりツギル戦法だな」
フツシはツギルに同意を求めた。
「うーん、しかし奴らも二度目の谷入りには、充分な備えで来るだろう。簡単に射程に入っては来ないはず。少しずつ倒すしかないな。そのためには遠くまで飛ばせる弓と、それに適した威力のある矢が必要だな」