訓練 五
訓 練 五
ムカリは、十九個の小石を両手の中でじゃらじゃら言わせた。
「頭 と小頭が討たれたと気付いた時、組頭達が真っ先に考えることは・・・」
「大砦の者は自分の小屋へ走るか、大頭 か小頭の館へ走る。兵士砦の者は自分の砦に走る」
ツギルが答えた。
「ほう、部下をまとめようとはしないのか?」
フツシが尋ねた。
「兵士達は、日頃から組頭の分配に不満を持っている。組頭は、上の者が後にいるから偉そうにしていられただけで、兵士をまとめる力はない。それを一番よく知っているのは本人達だ。だから自分の小屋にある物を守ろうとして走る」
「大頭 や小頭の館に走るというのは、そこにある物を守るためか」
「馬鹿な、奪いに行くのだ」
「とすると、ツギルの考えでは、俺達を追う者はいないということになるな」
ムカリが小石を地面に落とした。
「それはある程度の時間だ。組頭の中にも利口な奴もいるさ。まず組頭をまとめ、次に兵士をまとめて略奪を押さえ、分配を増やしてやるから俺達を討ち取れと命じるだろう」
「その態勢をとるのに、どの位時間がかかる?」
フツシが尋ねた。
「大混乱になって・・・略奪や仲間同士の奪い合いが一時間は続くかな。そのうち酔いも醒め、冷静になってくれば全体を仕切る奴が出てくる・・・これにも一時間。それから何がどうなったかを考え、態勢を立て直し、行動を起こす。この間が早くて一時間。合計三時間かな。だがこちらが考える以上に優秀な奴がいるとして、二時間とみておくべきだな」
ツギルが慎重ではあるが自信に満ちた目でフツシを見た。
八人の中で常に冷静で慎重なツギルの言葉に、異議を唱える者はなかった。
「奴らが態勢を整えるのは大砦の中。その後はどう動く?」
ムカリが、地面に落とした小石を拾い集めながらツギルを見た。
「俺達の逃げた方角を確かめる・・・まず大砦の周りを調べるだろう。足跡を見つけ、方角が分かれば、追っ手を出す。こちらの人数が少ないのは分かっているから、組単位だろうな。その間に兵士砦に遣いを出し、大砦に集合させるかも知れないな」
「この山や、スサやヒノボリの森に、討伐に向かうことも考えられるのではないか」
ムカリが言った。
「それもある。だがそれは、俺達の逃げた方角が分からなくなってからだろう。その場合は待ち伏せを警戒するから、少なくとも五組単位だろうな」
このツギルの説明にも全員が納得した。
フツシが立ち上がって、白い石を手にした。
「予定通りに頭達を討てたとすれば、ツギルの言う通りの展開になると考えていいだろう。これを前提に襲撃の後を考えよう。襲撃組は砦を出たら三ヶ所に集まる。ここだ」
フツシは三個の石を、大砦から三ヶ所の兵士砦に向かう道に置いた。
「それぞれの砦の兵士全員が帰ると考えれば、三十人ずつだな。その全員をここで討ち取る」
「ちょっと待てよ、俺達全員が無事に出たとしても二十四人だぞ。それを三ヶ所に分ければ、一ヶ所八人しかいない。八人で三十人を討つのか」
ムカリが険しい目をした。
「サタとキスキの手を借りる。グルカ砦に向かう道はキスキに、メキト砦に向かう道はサタに任せる。俺達はダキル砦へ向かう道を担当する」
「サタとキスキが手を貸してくれるのか?」
ムカリの目は険しさを消し、信じられないという光に変わった。
「サタは間違いない。キスキは五分五分だが、サタが加わると知れば手を貸す」