訓練 四
訓 練 四
フツシは小屋の中に先ほどの石を持ち込み、外と同じように並べながら言った。
「宴の日に、頭 と小頭の十六人は確実に討ち取り、全員が無傷で引き上げたい」
「全員とは何人だ」
ツギルが聞いた。
「二十四人・・・頭 と小頭の討ち手が十六人、各組に連絡兼案内役を一人付けるから、全部で二十四人だ」
「分かった。で、襲撃の手順はどう考えている?」
床に並べられた石の配置を確認していたムカリが顔を上げた。
「頭 と小頭全員が酔い潰れたところを同時に襲う。俺とお前達は頭を殺る。手下は小頭を殺る。だれにさせるかここで決めよう。歳にこだわることはないぞ、度胸があって、冷静で、足の早い者を選べ」
「躰がでかくて、力のある者ではないのか?」
アスキが尋ねた。
「相手と戦う訳ではない。急所を刺して素早くその場を離れ、砦の外に出る。外に出てからは、一刻も早く残党と戦う態勢をとらなければならない」
フツシは念を押すように、一人一人に視線を転じた。
小頭達はこれまでの探索過程で、命懸けの行動を共にすべき部下を決めていた。
各自が挙げた名前に、異議を唱える者はいなかった。
人選が決まったところで、ツギルが言った。
「宴の日の兵士砦の人数と配置はどうなっていたかな」
フツシが即座に答えた。
「去年は二十人が残って警備に就いていた。大砦は兵士で溢れていたが、全員が食うことに夢中だったとお前の手下が言っていたではないか」
「そうだったな。去年宴の報告を聞いた時、兵士砦は用心深いと感心したよな」
カラキが付け加えた。
それまで黙って石の配置を睨んでいたムカリが小石を置き始めた。
「大砦に酒を運び込むのは討ち手と連絡役、三人で大瓶一つを運び込むのは誰が見てもおかしくはない。二十四人がそのまま給仕役として動き回っているのもおかしくはない。全員が酔いつぶれた頃に、各自が目指す相手を討つ・・・連絡役が一番近い逃れ場所に誘導し、そこから砦の外に出る。・・・問題はその後だ。頭達が討たれたと知った兵士どもが、どう動くかだな」
兵士には、頭の血筋とそうではない者の間に、階級があった。
十人が最小単位となっていたが、その指揮官が組頭で、組頭をまとめるのが小頭であった。兵士砦は、五人の組頭 と小頭が一人、その上に頭がいた。
組頭、小頭といった指導的地位は、能力に関係なく、頭の血筋の者が占めていた。
砦では兵士の家族も共に暮らし、三つの兵士砦はそれぞれ四百人を越える集落であった。
大砦には倍の兵士がおり、大頭の奴隷的な立場の地の民を合わせると、九百人近い集落となっていた。
いずれの砦の兵士も、志気は低く規律は乱れていた。
というよりは無いに等しかった。
二代目以来、他民族の抵抗は無く、兵士の仕事は、上納が滞った時に無抵抗の者を痛めつける程度であった。
分配は不公平で、全てが特権階級に集中していた。
これに不満を持つ一般兵士の多くは、はけ口を地の民に向けた。
浜辺の民は、海を相手としており気性が激しい。
森の民は、獣相手に武器を使うから、迂闊に手出しはできない。
結局、野辺の民が被害者となった。
指導者達も、上納に影響が出ない程度の乱暴狼藉は、見て見ぬ振りをしていた。
収穫の宴は、粗暴な兵士の日頃の欲求不満を解消させる日でもあった。
毎年、大頭が指示した集落の娘が一人、その犠牲となった。
上納を要求通り納めることができなかった集落も、娘を提供しなければならなかった。
娘達は、大頭の奴隷となるか、兵士へ分配されるかであった。