上陸 三
上 陸 三
「おい、通詞、あれは韓の船だ。奴らは韓の者か?それにしては、砦の頭衆のような大きな躰をしておるぞ」
「はい。船は韓のものです。しかし韓の民ではないですね。あれは多分、砦の頭衆と同じ、内陸の民のようです」
通詞は、船の男達が、この地を束ねる砦の頭衆と同じ民であることを察知していた。
『頭、あれがこの国の民か?みんな小さいな』
何事にも好奇心の強いクツリが囁いた。
『どう見ても、海を渡った鉄の民の子孫には見えん。あれはこの国の民だろう。みんな、舳先をあの砂浜に向けるぞ』
フツは、兵士達が群がる砂浜に向けて顎をしゃくった。
「おいおい、あいつらここに突っ込んで来るぞ。えらい勢いだ」
「お前ら全員浜に降りて、あの船を囲め」
見回りの組頭が怒鳴った。
船は、崖下の小さな砂浜に乗り上げた。
真っ先にフツが降り立った。
取り囲む者達が手にする槍先は、鉄ではあるが極めて脆弱な、旧い形のものばかりだ。
槍の間から、通詞が現れた。
『皆さんは、何者で、どこから、何をしに来たのですか』
通詞は船で判断したのであろう、韓の言葉で問いかけてきた。
『我々は鉄造りで、私は頭のフツ。この地に素晴らしい鉄砂と鉄炭に適した森があると聞き、鉄の道具を作るために来た。この地の民の長の許しを受けたい』
『船はこれだけか』
『そうだ。仲間はこの一五人。昨日から飲まず食わずだ・・水をもらえないか』
通詞は、やり取りを、見回り組頭に伝えた。
「よかろう。おい、あっちに連れて行き、水と食い物をやれ。通詞、そう伝えろ」
フツ達は、崖下に誘導された。
水と、魚の干したもの、そして干した木の実を与えられた。
船を見ると、運んで来た荷を運び出している。
『頭、みんな持って行かれる。あれが無ければ仕事が出来ない』
カナテが干し魚を噛みながら囁いた。
『好きにさせておけ。今儂らに必要なのは、水と食料だ』
そこへ通詞がやって来た。
『大頭から連絡が来るまで、皆さんはこの崖の上の川縁に居てもらうことになった。水は川にある。食料は干し魚と木の実を提供する。足りない所は海と山から調達してよい。種火と木を切る道具も提供する』
見回りの組頭が引き上げを命じた。
フツ達は、通詞に誘導され、切り立った崖に付けられた足場を登った。
崖の上は海側に傾斜した狭い草地で、突き当たりには一段と高い崖がそびえ立つ。
草地はその崖の根元を巡るように細く伸びており、人が歩くのには支障がない。
崖を左手に見ながらしばらく歩くと下り坂となり、小さな入り江に降り立つ。
草地はそこで左に広がり、ちょっとした草原となっている。
右側には大小の岩が岸壁を形成している。
岩から水面までは、大人の身長ほどある。
入り江全体が高い崖で囲まれており、進入路は今来た道しかないように見える。
左奥の、草原の尽きる辺りに、崖を下った小さな急流が海へ流れ込んでいた。
通詞が言った川縁は、その急流の横にあった。
そこは、草原より大人二人分ほど高い台地で、かなり広い。
『連絡するまで、ここに居て下さい』
通詞はそう言い残すと、入り江の更に向こう側へ消えて行った。