訓練 三
訓 練 三
それを見ていたオモリとヤツミが顔を見合わせた。
「ツギル、どういうことだ」
オモリが言った。
「俺が説明する」
フツシが両手に白い石を拾い上げながら言った。
「オロチ衆は、自分達が三代に渡って押さえつけてきたこの地の民を、全く警戒していないとうことだ。南の山の向こうも同じだ。奴らが警戒しているのは、海の北から渡ってくる新しい技術や知識を持った同胞だけだ。だから親父達が警戒された。しかし親父達も老いぼれて塩造りしかできなくなったと思い、今では地の民扱いだ。息子の俺達は能無しだと思っているから、最初から地の民だ」
「奴らが地の民を警戒していないのは分かった。だからどうなんだ」
ヤツミが先を促した。
「いいか、俺はここにいる」
と言いながらフツシは白い石をツギルの描いたサタの森に置いた。
「そしてこちらにはアスキがいる」
ヒノボリの円の中にもう一つを置いた。
「スサとヒノボリは身内だ。ヨシダも身内同様となっている。ニタとヨコタを味方にすれば、森と山の全てがオロチ衆の敵になる。しかし奴らが警戒しているのは北だけだ。俺達はオロチ衆の南で、討つための準備が好きなようにできる」
「準備ができても、討つことができるか」
ムカリが言った。
「それを今年の収穫の宴で試してみる」
フツシはアスキを示す石の周辺に、白い小石を並べた。
「今年アスキの所で大量の酒を造り、縁組みをした民に届けて飲んでもらう。そのあとでシオツやこの山の上納品に酒を添えておく」
「酒を知らないオロチ衆が飲むかな」
オモリが思案顔で言った。
「宴にはあちこちの長が挨拶に行く。縁組み先の長に酒の話をするよう頼んでおくのだ。
オロチ衆は警戒してすぐには口をつけないだろう。長達が飲んでみせて旨い物だと言えば奴らも飲む。飲めばもっと欲しくなるから、あるだけ持ってこさせろと言うはずだ。シオツに二瓶残しておいて、それを差し出す。この仕事は親父にしてもらう。来年はもっと差し出せと言うに決まっているから、引き受けて帰ればいい」
「来年の実の付きが悪かったら、大変なことになるぞ」
オモリが言った
「だから今年大量に造るのだ。届けるのは一部で、来年必要な大瓶八個はヒノボリの森に
隠しておく・・・暑くなったな、小屋に入ろう」
早朝の爽やかさに包まれていた広場は、いつの間にか真夏の太陽に満たされていた。