訓練 二
訓 練 二
手下達は、夜が明ける前に持ち場に向けて山を下りて行った。
仕事場に残ったのは、小頭達と、そこで作業をしなければならない手下だけとなった。
フツシは仕事を手下だけで進めるように指示し、小頭達を日当たりの良い広場に集めた。
「来年の収穫の祝いまであと一年と少しだ。これまでのところ、全てが順調に進んでいる。七つの砦の様子は、住んでいるほどに分かるようになった。毎日出入りする手下達は、今では中の者のようになっているそうだな。持ち場の監視は、これまで通り続けてくれ」
「いつまで続けるのだ」
ムカリが尋ねた。
「頭達が大砦に出かける前の日までだ」
「ということは、大砦に頭達が集まっている所を討つということか」
ツギルが答えを求めた。
「それを話すためにこうして集まってもらった。納得できないところがあれば言ってくれ」
フツシは立ち上がって、地面に地図を描き始め、大小の石を集めさせた。
「この白い石をこの山とする。この山から南に三時間のこの川の所、この黒い石がメキト砦。メキト砦の東二時間のこの川沿いがダキル砦で、これも黒石。その十五分南の、川の合流横、ここがコムスとオロチの大砦で一番大きな黒石。その更に二時間東北のこの川沿いがグルカ砦、これも黒石。メキト砦から二時間半南東のこちらの川沿いがトルチ砦の黒石。それから二時間東のこの川沿いにオンゴル砦の黒石。オンゴル砦から東二時間のこちらの川沿いがキルゲ砦の黒石」
フツシは地面に描いた地図に川を書き込み、オロチ衆の砦に黒い石を置いた。
「よく見ろよ。大砦はダキル砦の少し後方に引っ込んでいて、三つの兵士砦は大砦を守っている。同時に、後ろの鉄衆監視砦を北から守りながら鉄衆を閉じこめてもいる」
「なるほど・・・オロチ衆は北だけを警戒し、南の山の向こうは警戒していないようだな」
ツギルが、地図の南に山並みを描きながら言った。
「サタに聞いた所、ヨシダの山の向こうにもずっと山が続くそうだ。サタも行ったことはないと言ってたが、尾根を境に川の流れが南に向かっており、その先は森から野辺、湿地となって海に至るらしい。その海の向こうにも陸地があるそうだ。オロチ衆が製品を運ぶのは、尾根の向こうの民の所らしい。その地には鉄を作る民はおらず、こちらで作ったものを求めるだけらしい」
フツシはサタから聞いた話を伝えた。
「オロチ衆は、海の北から来る者は同じ血が流れているから警戒するが、南はこの地の民ばかりだと知っており、警戒の必要はないと考えているようだな」
アスキが、ツギルが描いた山並みの南に小石をばら撒いた。
その小石を数カ所にまとめながらツギルが言った。
「尾根の向こう側の地形もこちらと同じだということだ。しかし鉄を造る山は無い。森や野辺や海辺の民がいて、全て地の民」
ツギルは、地図に大雑把な円を描き始めた。
「トルチ砦の西がフツシのいるスサの森。オンゴル砦、キルゲ砦、グルカ砦、大砦に囲まれる四角の中がアスキのいるヒノボリの森だ。この森は全て地の民だ。こちらのトルチ砦はヨシダの山、オンゴル砦はニタの山、キルゲ砦はヨコタの山を監視している。この山の民は、ヨシダは全て地の民。ニタとヨコタも、渡来の民が混ざっているとはいってもほとんどが地の民ということだな、フツシ」
ツギルはフツシを見てにたりと笑った。