展開 七
展 開 七
スサの森の弓上手と言われる者達が集められ、新しく作った矢を放っている。
射終わったあと、誰もが感嘆の声を上げる。
「皆の衆、手応えはどうじゃな?」
フツが声を張り上げた。
「鏃の重さが違い、狙いに工夫がいりますが、石の鏃とは比べものになりません。小型の獣用は精度が増しております。大型の獣用は遙かに深く突き刺るようです」
マコモが顔をほころばせた。
それを受けて、後方から弓矢作りの手練れが言った。
「矢先のぶれが減っただけ、弓を強くしてもいいのではないか。距離が伸びても精度は落ちず、破壊力は増す」
「サタ、あとは数じゃな」
「うむ、山の衆との手はずが決まったら連絡する」
フツは十日ばかり滞在した後帰って行った。
丁度その頃、ヒノボリの森に、アスキの両親ホキシ夫婦の姿があった。
アスキの嫁の出産はまだ少し先であったが、シオツの大人達の移動を監視する者はいなかった。
ホキシが担いで来た荷の中には、酒があった。
ホキシは、酒壺を携えてキスキを訪ねた。
「キスキ、これを飲んでみてくだされ」
ホキシは壺から椀に酒を注いだ。
「これは・・・よい香りがしておるが・・・なんじゃ?」
「酒と申します。海の向こうの儂らの地では、儀式や祝い事のとき、皆でこれを飲みます」 ホキシは少し口に含み、ごくりと飲み込んで見せる。
それを見たキスキも、つられて飲み込む。
「ふむ・・・少し甘いな・・・酸味と苦みもあるが・・・うん、これは・・・なかなか旨いものだな。一体何でできておる?」
「お口に合いましたかな・・・これは木や草の実で作ります。少々飲んだだけでは分かりませぬが、もう少し飲みますと気持ちがよくなり、愉快になります。しかし飲み過ぎますと、頭がふらふらし眠ってしまいます」
「酒か・・・」
言いながらキスキは椀を飲み干し、差し出した。ホキシは注ぎながら
「旨いものですが、飲み慣れない者はすぐに酔いますゆえ・・・ぼちぼちと」
「酔うとは?」
「気分が良くて、頭がふらふらして、訳が分からなくなり、眠ってしまうことです」
「うん、何となく気分が良くなってきた。シオツの衆は、婚姻の祝い事の品としてこれを持って行くのか」
「大量に作れれば持って行きますが、試しに作っただけで足りませぬ。去年あちこちの衆と縁組み致しましたが、酒をお持ちしたのはこちらの森だけ」
「なぜここだけに?」
「酒を造るには、大量の木の実が必要。少々ならどこにでもあります。アスキも今年の新年の祝いで初めて口にし、何で作るのかと聞きました。材料となる木の実を教えましたところ、ここの森にはいくらでも有ると申します。ならばこの目で確かめてみようというのも、こちらに参った目的のひとつでございます」
「なるほど。実がなるということは秋、秋にならねば分からぬのではないかな」
「実は花の後になります。花を見れば分かります」
「それはそうだな。実が大量に採れるということになれば、ここで酒が造れるのだな」
「この森で造り、この森の衆は勿論、あちこちの衆に振る舞わねばなりませぬ」
「それは楽しみ。手伝わせるから、ここの者にも造り方を教えてやってくれ」
「ありがとうございます。手が多ければ多いほど、沢山造れます。この秋が楽しみ・・・」