展開 六
展 開 六
サタは弓矢作りの手練れを呼び、鏃を囲んで矢作り談義が始まった。
フツはそれぞれの鏃の目的を述べ、実用に適した改良を共に考えようと誘った。
鉈や小刀も材料さえ手に入れば、求めに応じたものを作りたいと申し出た。
何事か考えながらそのやりとりを聞いていたサタが、割って入った。
「フツ、材料を調達しよう。山の衆と交渉するが、何が必要なのじゃ?」
「一番手っ取り早いのはハガネを手に入れることじゃ。これが最高の鉄で、剣となる。次がズクじゃ。鏃や小刀、上等の鉈になる。その次がブゲラじゃ。これでも武器は作れるがズクには劣る。とは言っても全ては鍛冶の腕次第。この全てが混ざっておるのが、炉を壊して取り出すケラじゃ。見たことはないか」
「呼び名は聞いたことがあるが、見たことはない。ハガネ、ズク、ブゲラの、いずれかを手に入れねばならんのだな」
「ハガネかズクが、一番ありがたい・・・ケラの材料となる砂鉄でもよいがな」
「なに、砂鉄でもよいのか?ならば難しいことではない。引き受けた」
「簡単に引き受けたが、あてがあるようじゃな。どこの山の衆なのじゃ」
「ヨシダじゃ。元は野辺の民じゃったが、山に連れ込まれた。この森とは野辺の頃からの古い付き合いでな。あの山だけは、全て気心の知れた地の民ばかりじゃ。ケラ出しの時は必ずトルチが立ち会うが、それまでは誰も姿を見せぬと言っておった」
「なるほど、砂鉄ならばオロチ衆に気付かれずに運び出せるということじゃな」
「そう言うことじゃ。手頃な重さになるようクマザサの葉や竹の皮で包み、細い蔦で荷造りする。大人一人が二個担げるくらいでどうじゃ」
「さすが狩猟の民、山から物を運び出す知恵はたいしたものじゃ」
「問題は、運ぶ手立てと引き渡す場所じゃな。重いものゆえ担いで運ぶのは難儀じゃ。それに何人もの者がお前様達の山に向かえば、メキト砦の者が不審に思う」
「河を使うことはできぬか?」
「おお河か・・・うん、河を使おう。山から筏を出し、トルチ砦の手前で日暮れを待つ。砦から半日ほどで、入江の、シオツに向かう谷の近くに着く」
「タブシの集落の西だな」
「あの集落は、オロチ衆の密偵で暮らしを立てておる者達の集まりじゃ、連中に気付かれてはならんぞ」
「日が暮れてから砦の横を通り抜けるとすれば、あの岸に着くのは真夜中。荷を素早く山裾に運び込めば、気付かれることはない」
「山裾まで運び込むのは簡単じゃが、山までは四半日ほどの距離。夜が明けるまでに人目に付かぬ所まで運び込まねばならん。人手はいかほどある?それによって、筏で運ぶ量が決まる」
「女手も入れて五十人、一人二包として百包となるが、二度に分ければ二百包か」