展開 五
展 開 五
オヒトが男の子を産んだ。ハヤヒと名付けた。
フツにとって初めての孫であり、好きな時に森を訪ねる途を開いてくれた者でもあった。フツは祝いの品を担ぎ、カテルを伴ってスサの森にやってきた。
「サタ、やっと大手を振ってこの地を訪れることができるようになった。ひとえに森の衆、中でもオヒトのお陰じゃ」
「なんの、フツシあればこそ、あのように元気な男の子が授かれた。カラキに も間もなく生まれると聞いておる。めでたいことよ」
「カラキの嫁は、シオツに来ておる。あちらは女子腹じゃと言うておるが、元気に生まれてくれれば男女いずれでもよいわ」
フツは携えてきた祝いの品を披露した後、サタににじり寄った。
「サタ、これを見てくれ。儂らが工夫したものじゃ」
サタは差し出されたものを手に取った。
「これは鉄の鏃?大きさも形も色々あるが・・・このようなものを見るのは初めてじゃ
」
「ここで若い者達が弓を教えてもらっておるが、鉄の鏃は少ないそうじゃな」
「オロチ衆は鉄で揃えておるが、儂らには高価なもの。大型の獣用に、わずかばかりを手に入れるのが精一杯じゃ」
「この鏃は、儂らが辰韓を出る頃に最も威力があると言われた形に、更に工夫を加えたものじゃ。この細身で鋭いのが小型の獣用。こちらの、厚みと長さを増して返しを大きくしたのが大型の獣用じゃ」
「なるほど・・・しかし小型用、大型用、それぞれに大小があるようだが」
「それは飛距離を考えていくつか造ってみた。しかし儂らは弓を射ることに関しては素人じゃ。そこで、ここの衆に試してもらいたいと思うて持ってきた」
「あの山では鉄も造っておるのか」
「いや、青銅だけじゃ。この鏃は、製品の見返りにあちこちで集めた砂鉄やハガネを山に持ち帰って密かに造ったもの。材料が手に入れば、大量に造れる」
「フツ、儂らは鏃だけではなく鉄の鉈や小刀も手に入れたい。じゃがオロチ衆を通さねば手に入らぬ。所望すると、とんでもない量の獲物を要求する。奴らは鉄の製品を近場の民には渡さず、遙か遠い地の民の所へ運んでおるのだ」
「それは聞いておる。儂らに鉄造りができれば、近場の衆にいくらでも提供するぞ・・・」「奴らに分からぬよう、密かに造ることはできるか?」
「材料さえあればできる。・・・ここの衆が大量に使っておることが分かれば、どこから手に入れたかを詮索されるぞ」
「その心配は無用じゃ。約束した上納を、毎年秋までにこちらから届ける。約束を守っておれば、奴らがこの森に来ることはない」
「他の森の衆の所もそうか?儂らの山やシオツ、嫁の里の浜辺の衆の所へは、月に一度はやって来るぞ」
「森に関してはどこも同じじゃ。海辺の衆の所は、武器を持たせて見回りをさせておるから監視に行くのだろう。野辺の衆の所も儂らと同じよ。お前様達は、自分達で山を仕切っておったのだから特別じゃ。元々オロチ衆は、海の向こうから来る者を極度に警戒する」