展開 四
展 開 四
薄緑色の若芽に覆われたスサの森に、新しい小屋が出来上がった。
間もなく子供が生まれるフツシとオヒトの新居だ。
今にもはち切れそうなオヒトの腹を撫でながらフツシが言った。
「この中にいるのは男か?女か?」
「そのようなこと、出てこなければ分かりません」
「腹の形で分かると、年寄りが言うではないか」
「腹の出具合では男だと言われますが、余り当てにはならぬともいいますよ」
「男なら弓矢を教えねばならんな」
「あら、フツシの地では、女なら教えなくともよいのですか」
「うん?この地では、女でも、弓矢を使うのか」
「弓矢を使うに、男も女もありません。妹のマコモは、この辺り一の名手です」
「それは知らなかった。マコモが名手か」
「森の民にとって、矢は獲物を仕留めるためのもの。一矢で急所を射抜くが上手」
「急所を外すと、どうなる?」
「獲物は逃げるか襲ってくるかのどちらかです。仲間がいれば二矢が放てますが、一人の場合は取り逃がし、矢が無駄となります。一人で襲われた場合、二矢を放つ間合いがあればよいのですが、無ければ、怪我をするか命を落とすことにもなりかねません。ですから襲ってくるような獣の場合、距離が問題となります。」
「離れておれば二矢を放つ余裕はあるが、一矢目の命中率が落ちる。近ければ命中率は高くなるが、外した場合の余裕がないということだな」
「その通りです」
「名手と言われるのはどういうことだ」
「矢を放てば必ず急所を射抜く腕前。自らの射程距離を守る、意志の強さと冷静さであろうと思います」
「オヒトの腕前は?」
「私の腕は、ご想像にお任せします・・・フツシは?」
「この地の衆とは比較にならんだろう。俺達の仲間では人並み以下かな」
「嫁の私に謙遜は不要。カラキに聞いておりますよ。頭は、弓も剣も仲間一と」
「カラキめ余計なことを・・・オヒト、俺と手下に弓を教えてくれ」
「この躰では無理です。マコモに頼みましょう」
翌日からマコモによる弓の指導が始まった。
半月ほどすると、全員が静止した的ならほぼ確実に射抜くようになった。
獲物によって弓も矢も変わる。
マコモは、獲物を想定した練習もしなければならないと言った。
そこでフツシは、最も危険な熊を想定しようと提案した。
何か聞かれるかと懸念したが、マコモは気にする風もなく最大の弓矢を持ってきた。
「マコモ、俺達に一矢で急所を射抜くことはできない。外して襲われた時に、二矢目は何処を狙えばいいか教えてくれ」