展開 三
展 開 三
久し振りに山の作業小屋に全員が揃った。
この年に一二歳となる男の子が四人加わり、総勢三十七人となった。
四人の割り振りを決めた後、フツシはこの年の計画を説明した。
「去年の調べでいろんなことが分かった。予定にはなかったが、俺とカラキ、ムカリ、アスキ、オモリの五人が嫁を持つこととなったし、シオツの娘六人が嫁いだ。これにより野辺、森、山の衆と姻戚関係ができ、俺達だけでは無理だった調べができるようになった。これまで分かったことだけでも奴らを倒せる」
「では今年実行か」
何事にも強気のムカリが目を輝かせた。
「俺はこちらに一人の犠牲者も出したくない。誰一人怪我もなく勝てる策を持ちたい」
と言いながらフツシは小頭の中で一番慎重なツギルを見た。
そのツギルが
「去年もそう言っていたが、多少の犠牲は覚悟しなければならんだろう」
と、指揮官としての決意を促した。
「最初から犠牲覚悟で向かえば、多少ではすまなくなる。一人も出さないと考えていても、誤算は生じる」
フツシがツギルを見て言った。
「で、どうする」
ツギルが尋ねた。
「今年一年、去年の調べを確認する。その上に、敵の頭 や小頭達の性格や癖までもよく
知りたい。成すべきことがもう二つある。これは俺達のことだ。確実に相手を仕留める技を磨かなければならない。親父に奴らの武器をしのぐ鉄の武器造りを頼んでおいた。この扱いの修練も必要だ」
「あとのひとつは?」
オモリが身を乗り出した。
「酒造りだ」
どよめきが起こり、あちこちで会話が始まった。
「酒だと・・・新年の祝いに飲んだあれか?」
オモリが声を大きくした。
フツシは立ち上がってどよめきを制した。
「みんなよく聞けよ。攻撃の時は、決めてある」
静まりかけたどよめきが、前より大きなものとなった。
フツシは腕を広げ全員を制した。
「オロチ衆は、毎年秋の満月に全員が大砦に集まって盛大な宴をする。その席に酒を献上するのだ。これまでの調べでは、オロチ衆が酒を飲む習慣はない。俺達も生まれて初めて飲んだが、実に旨かった」
あちこちから「旨かった」「またのみたい」という声が挙がったが、すぐに静まった。
「頭連中はもちろんだが、兵士にもたっぷり行き渡るだけの量の酒を造る。奴らが酔いつぶれた時に攻撃を開始する」
「では今年の秋の宴ということか?」
ムカリが尋ねた。
「お前達に聞くが、この秋までに充分な武器が揃い、その扱いを身につけ、敵を確実に仕留める技を身につけられると思うか?」
「無理だな。頭は決行を、次の秋と決めているのだな」
ツギルが冷静な声で確認した。
「そうだ。決行は、来年の秋の、収穫の宴の日だ」
どよめきは起こらず、息苦しくなるような緊張がみなぎった。
それを打ち破るようにフツシが言った。
「まだ一年半以上の時間がある。調べを進めながら、武器の扱いと必殺技の訓練をする。明日から親父達が鉄の武器の造り方を教えに来る。材料は去年集めたが充分ではない。この材料集めも今年の仕事になるぞ。オロチ衆の武器より威力があって使い易いものを、俺達で造るのだ。鏃以外は、各自が最も使い易い形を工夫しろ」
緊張が解け、隣同士で武器談義が始まった。