表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スサノヲ  作者: 荒人
20/131

展開 一

展  開 一

 

これまで海沿いの民しか訪れなかった海辺の集落に、森の民の姿が見られるようになった。

彼らは野や山の収穫物を携えて訪れ、塩を持って帰る。

フツ達は、海辺に炉を設置して生活に必要な塩を作っていた。

身内として訪れた者に持ち帰りたい物を尋ねた所、青銅製品ではなく塩を求めた。

そこで集落に必要な量以外に、返礼・交換の品として、塩を作り置くこととした。

間もなく内陸の縁者達は、フツ達の棲む場所をシオツと呼ぶようになった。

これを知ったオロチ衆は、フツ達に塩を上納するよう求めた。

フツはこの新しい要求に対し、孫達が生まれる地への自由な往来を求めた。

オロチ衆は年老いたフツ達に対する警戒を解き、地の民と見なすようになった。


 フツシ達が山へ入って最初の新年が訪れた。

シオツは、見違えるほどに(たくま)しくなった若者達で活気づいていた。

集落の中心に建つ建物は、男達で溢れていた。

大人達が、フツシ達が初めて見る赤黒い液体を旨そうに飲み、顔を真っ赤にしている。

「親父殿、それは何ですか」

「おお、フツシ、お前も飲め」

 フツの隣のホキシが、椀をさし出した。

液体は赤黒いが透き通っており、いい香りがした。

「見ていないで飲んでみろ。旨いぞ」

 液体の香りに比べ、ホキシの息は臭かった。

 フツシは口を付けてみた。

ほんのり甘く、少し渋味もある。

「何をしておる。こうやって飲むのだ」

 ホキシはがぶっと飲んでみせた。

フツシもがぶっと口に含んだ。

舌の両側に刺激と、奥には少し苦みも感じたが、ごくりと飲み込んだ。

喉がかっとしたが一瞬で、胃がほわーっと熱くなった。

しかし不快感はない。

「もう一杯飲め」

 今度はキヌイが手を伸ばし、壺からなみなみと注いでくれた。

今度は躊躇せずに、ごくごくと飲み干した。

旨かった。

やがて体中がカッとなり、こめかみに動悸を感じた。

しかし無性に楽しくなった。

「キヌイ、これは何ですか」

 愉快で、声まで大きくなった。

「酒だ。お前達が知らないのは当然だ。この地に来てから初めて造ったのだからな」

「いつ造ったのですか。こんな旨いものを、なぜ今まで飲ませてくれなかったのですか」

「去年の夏から秋にかけてだ。飲ませなかった訳ではない。造らなかったのだ。なあフツ」

「そうだ。オロチ衆が警戒している間は造らなかった。警戒を解いたから造ることにした。めでたい。みんな飲め」

「これは一体何でできているのですか」

「木や草の実だ。海の向こうでは馬の乳や穀物で造るものもある。この地には酒になる木の実や草の実がたくさんある」

「俺達でも造れますか?」

「ああ、造れる。しかしこれは儀式や祝い事に飲むものだ」

「そうか。今日はめでたいから飲むのですね。おい、みんなも飲め」

 生まれて初めて酒を飲んだフツシは間もなく酔いつぶれ、眠ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ