潜入 六
潜 入 六
サタが語るオロチ衆の行状は、高句麗を追われた悪しき渡り鉄衆の姿だった。
「奴らのあとにも、海の向こうから来た者がおった。鉄造りの衆だったと聞いておる」
「その者達はどうしたのですか」
「オロチ衆が山に連れて行った」
「たたら場で仕事をしているのは、そのような者達やその子供」
「渡来者の数はそう多くはない。大半が、無理に連れ込まれた野辺の民達じゃ」
「オロチ衆はハガネを手に入れ、武器を造ったのですね」
「今の連中の親父達の代になると、人数も男だけで百人以上となった。奴らは、たたらを差配する者と、上納を集める者に分けられた。今の大頭は上陸したときの頭の孫じゃ。七人の頭連中も身内じゃ」
「サタの所へも上納を要求してきたのですね」
「鉄の武器を持った連中が、巻き狩りでもするように取り囲んだ。こちらが観念するとメキトの親父が現れ、儂等の狩り場を西のあの尾根から東のこの尾根、南はあそこの尾根までとし、他の衆は入れないようにする。その代わり上納せよと言ってきた。断ることはできなんだ」
「サタ達にとって、上納は無理なものでしたか?」
「一年の獲物の三が一だから楽ではない。だが狩り場が決められたことで争いが減り、塒を移すことも無くなった。そのお陰で野辺の衆の真似事もできるようになり、姻戚関係もできたから、悪いことばかりでもなかったな」
「連れ込まれた野辺の衆は、元の地に帰りたがっているのでしょうか」
「もう二代目三代目で、すっかり鉄造りの民となっておってな、今さら山を下りる気はないようじゃ。しかし上納が大き過ぎ、それに対する不満は強い」
「森と野辺の民が緊密なのは分かりますが、山の中の鉄造りの民とも親しいのですか」
「山の中とは言っても半日か一日の距離、山からここへ嫁に来た者もおるし、山へ嫁に行った者もおる」
「オロチ衆は、無理に山に連れ込んだ者達と、森や野辺の衆が行き来することを禁じてはいないのですか」
「オロチ衆が、お前の親父達を閉じこめたのは、同じ血を恐れたからであろう。奴らはこの地の民など恐れてはおらん。気に入らなければ即座に殺す。上納を言われる通りに収め、機嫌を損ねることを言わず、定められた範囲に棲んでおれば、行き来や婚姻には口を出さぬ。」
「俺達はどのように見られているのでしょうか」
「適齢の男はあと何人おる?」
「カラキ、アスキと同年齢の者があと五人おります」
「それ以下は?」
「十六歳が五人、十五歳が五人、十四歳が六人、十三歳が四人、十二歳が五人」
「ふん、お前を入れて十八人がなんとか一人前で、残りの十五人は子供・・・ここの娘を嫁にして何か言われたか?」
「いえ、何も」
「そうじゃろうな。今では砦に五十人、大砦には百人の兵士がおる。親父達には慎重になったが、お前達など気にしてはおらん。ところで、お前達の所に適齢の娘はおらんのか」
「七人ばかりおります」
「嫁に出す気はないのか」
「山と海辺の仕事しか知らない者ばかりですが、この地の民の嫁になれますでしょうか」
「なにを馬鹿なことを言っておる。女子とは、どこの土にでも根を張る生き物じゃ」