潜入 二
潜 入 二
「これで準備のためにすべきことがはっきりしたな。次は役割分担だ。俺の組はオロチを
担当する。ムカリ組は西の兵士頭メキト、スキタ組は北の兵士頭ダキル、ツギル組は東の兵士頭グルカ、カラキ組は西の鉄衆頭トルチ、アスキ組は南の鉄衆頭オンゴル、ヤツミ組は東の鉄衆頭キルゲ、オモリ組は食糧頭コムスを担当とする。鉄衆、野辺の衆、海辺の衆のことは、製品の取引をしながら調べよう」
「オロチ衆の情報集めは、どのようにするんだ?」
これまで終始黙って聞いていたオモリが初めて口を利いた。
「各組に振り分けた二人を、担当地区に遊びに行かせる。連中なら絶対に見咎められない」
「遊びに行かせるだと、ここから一番近いメキト砦でも半日近くかかるぞ」
オモリが納得できない顔をした。
「確かにここからは遠い。そこでつなぎの場所を考えた。湿地の向こう側の、西の入江に河が入り込んでる所に小高い山がある」
「しょっちゅう兵士に荒らされている野辺の衆が棲む山のことか」
ムカリが尋ねた。
「そうだ。お前が何とかしてやりたいと言ってた野辺の衆の所だ。あの山の奥に半製品を持ち込み、仕上げ作業をする」
「あの山の中で仕上げ作業?そんな必要があるのか・・・野辺の衆が変に思うだろう」
今度はオモリが尋ねた。
「あの辺りの者は、オロチ衆を極端に恐れている。だから俺達がオロチ衆に命じられてあの山で仕事をさせられている風を装えば、被害者仲間と見るだけで、深くは考えない。野辺の衆が上納の品が揃えられず困っている時には、俺達が手に入れられる物を集めて助けてやればいい。そうすれば、連中は俺達の味方になる」
「なるほどな・・・よし、その手で行こう。あの山には俺が住もう」
ムカリが申し出た。
「ではムカリに行ってもらう。あの山から遊びに行ける砦はメキト砦とダキル砦、それに大砦の三ヶ所だな。あとの砦は遠すぎる。手始めに次の満月からその次の満月までやってみよう」
「ちょっと待ってくれ・・・始めるのはいいが、具体的にどうやるのだ」
ムカリが言った。
「二人でひと組とする。まず砦担当が夜が明けたら砦に出かけ、夕方にはムカリの所に帰る。そして、その夜のうちに情報を山担当に伝える。翌朝砦担当は砦に、山担当はこの山に向かう。山担当は砦担当から聞いた情報を小頭に伝え、新しい指示を受けて夕方にはムカリの所に帰る。砦担当も帰ってくるのだから、二人は夜の間に情報と指示を伝え合う」
各組の手下達は夜が明けると出かけ、日暮れには、情報を集めて帰ってきた。
彼らは言葉以外の伝達手段を持たないため、観察力も記憶力も正確であった。
最初の満月期間だけで、三つの砦の家族構成と日常生活の全容、そして兵士やその他の人員数と配置や交代の順番までもがつかめた。
情報を受けた小頭達は、他の小頭にそれを伝えた。
ならした地面に印を付け、石ころ、小枝、木の実などを置いて、今で言う戦略図が作られ始めた。