潜入 一
潜 入 一
志を一つにしたことによる興奮は、間もなく収まった。
頃合いを見てフツシは、全員を座らせた。
「何をするかがはっきりしたからには、何をしなければならないかを決める。俺が頭となることに異存はないな」
全員が賛意の声を上げた。
「よし。では次に小頭を決める。十七歳組の七人は、全員小頭とする」
一瞬、戸惑いの空気が流れた、山での仕事にそれだけの小頭は必要無い。
「八人のオロチ衆の頭達に対し、八つの組が必要だと言ったはずだぞ」
フツシは十七歳組一人一人の顔に視線を転じた。
「仕事の小頭はどうするのだ?」
体格も腕力も仲間中随一のアスキが尋ねた。
「これまでは持ち場があったが、これからは俺がその場で適当に決める」
「それでは、出来も効率も悪くなるぞ」
ムカリが言った。
「構わない。年寄りが隠居して若い衆ばかりで手が落ちたと思われれば好都合だ。オロチ衆からも、若造達は出来が悪いと思われていた方がいい」
「出来損ないを装う訳だな」
アスキが歯を見せた。
「そうだ。みんないつも通り馬鹿面をしていればいい」
全員からどっと笑い声が上がった。
「次に組を作る。俺の組は四人とし、残りの組は三人とする。どの組も各年齢から一人ずつ入れる。割り振りは今夜中に考えて明日伝えることにしよう。明日からは山の仕事を始めなければならない。小頭以外はもう寝ろ」
山の仕事は日の出とともに始まる。
夜は、食事を終えれば、当番と大人以外は眠りに就くのが習慣となっている。
その日の夕食は随分早かったが、いつもの就寝時間をとうに過ぎていた。
しかし全員が興奮しており、まだ話を聞きたがっていた。
これまでなら、まだいいではないかと不平を漏らしただろう。
しかし、フツシを正式に頭と認めた今は、機敏に反応した。
フツシは七人の小頭に、昨年末から練ってきた考えを説明した。
まず挑戦は一度しか出来ないこと。
失敗すれば、浜辺の家族も含めて皆殺しになるであろうということ。
つまり、成功か死しかないことを、徹底認識させた。
次に、討つべき相手としてのオロチ衆に関する知識が、皆無に近いこと認識させた。
また山、森、野辺、海辺の衆のことも、知っているようで実はよく分かってない点と、彼らとは、オロチ衆を討つ前も後も、緊密な関係を築かなければならないことを確認した。
これにより何をしなければならないかがはっきりした。
第一に、頭八人の家族構成と行動範囲、それに生活習慣、更に抱えている兵士の数と戦闘能力や意識が、どの程度のものであるかを知っておかねばならない。
第二に、山、森、野辺、海辺の衆達が、本心ではオロチ衆をどう見ているのか。これまで抵抗をしたことがあるのか、抵抗をする気があるのか、どうしたいのか。オロチ衆との戦いを前提とした場合の、彼らの戦闘能力を知ることも重要である。
そして第三に、三人で二人を殺害する方法と、実行のための訓練である。