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スサノヲ  作者: 荒人
13/131

独立 四

独  立 四


 フツシとスキタのやりとりに口を挟む者はいなかった。

全員が一言も聞き漏らすまいと、固唾を飲んで聞き入っていた。

「準備と言ったが、その手順はできているのか?」

「細かいことはこれからだが、骨組みは考えてある」

「勝てる骨組みがか?」

「オロチ衆の(かしら)は 大頭(おかしら)を含めて八人だ。これに対し、俺と十七歳組を合わせれば八人。 残りの者を振り分ければ、三人の組が七つと四人の組が一つで、八つの組ができる」

「一人対一組の数あわせが何になる。こちらは戦などしたこともないガキの集まりだぞ」

「二年後もガキの集まりか?二年後、お前は十九だぞ」

「たしかに・・・しかし連中は大勢の兵士に守られている」

「同じ日の、同じ時刻に、それぞれの組が、(かしら)と 小頭(こがしら)を討つ。兵士など何十人いても関

係ない。 (かしら)や 小頭(こがしら)が討たれれば、兵士達は俺達のことより、(かしら)達のお宝の略奪を考えるさ」

「なるほど・・・だがそんなにうまく事が運ぶかな」

 スキタは正面からフツシの目を覗き込んだ。

「三人で二年も準備すればできる」

 フツシはスキタの目に答えた。

「フツシは、勝算ありと考えているのだな」

 スキタは、更にフツシの目の奥を見据えた。

「そうだ。全員が同じ気持ちになり、時間内にやり遂げれば、勝てる」

 フツシは視線をそらさず答えた。

「口で言うのは簡単だ。相手は手強いぞ。こちらにも相当の犠牲がでるだろう」

 スキタは、フツシの目の一瞬の曇りも見逃すまいと、瞬きもせず問いかけた。

「確かに手強い。しかしな、まだはっきりとはしていないが・・・皆が俺の考え通りに事を進めてくれれば、一人の犠牲も出さずにすむ策を練っている」

 フツシの目に曇りはなかった。

「本当にそんな策があるのか?」

 スキタの視線が一段と強くなった。

「ある。くどいようだが、皆が、絶対にできる、やり遂げる、という信念を持って向かわなければ失敗する。だから異存のあるものは言ってくれ」

 フツシは視線を転じた。


 フツシ達は、物心ついた頃から親達の忍従(にんじゅう)の過去と雌伏(しふく)の心境を聞かされ続け、蜂起の気概と行動力を持つよう育てられてきた。

山での過酷な労働も、正確な技術や情報の伝承も、理不尽な支配者への対抗手段を培うためであると教えられてきた。

親達は、知る限りの知識を日々繰り返し語り、子供達の体に染みこませていた。

年嵩の者達は、生意気盛りでもあり、血気に溢れ、希望につながる冒険を求めていた。

最年少の者達も、年相応の役目を割り当てられて当然と考えており、行動する集団の素地は出来上がっていた。

いま、兄貴分であるフツシが、二年の準備でオロチ衆を討てる策があると言った。

親達が果たせなかった夢を、自分達の力で実現できると言い切ったのだ。

誰一人異存などあるはずがなかった。


 この時の彼らには、戦いで受ける苦痛や死への恐怖はなかった。

ましてや、自分達が殺すであろう相手の、家族や血縁の心情に思い至るはずはなかった。

彼らを突き動かしていたのは、親達が持ち続けてきた怒りと恐怖を撃破したいとの狂気であった。

「本当にみんな異存は無いな。一人でも怖じ気付いたら失敗するぞ。失敗は死だ。しかも、死ぬのは俺達だけではないぞ。親父やお袋、弟に姉妹もだ」

 フツシは仁王立ちになり、ひとりひとりの顔を確認した。

「フツシ、それ以上念を押す必要はない。十二歳組ですら覚悟はできてる」

 スキタも仁王立ちで隣のイトの顔を見た。

イトが大きくうなずき返した。

「フツシ、何をすればいいか言ってくれ」

 十二歳組からカラトンが立ち上がった。

それを待っていたように全員総立ちとなり、フツシを見つめた。

「よし、決まった。やるぞ!みんな俺の言う通りに動くんだな」

 一瞬の沈黙の後、全員の口から雄叫びが発せられた。


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