独立 三
独 立 三
「知恵と技が怖い?」
イトは理解できないという表情をした。
「あいつらの武器を知っているだろう、百年くらい前の技だそうだ。あいつらの爺さん達は、あの武器でこの地の民を押さえつけ、自分達のたたら場を開いた。最初は自分達で鉄造りをしていたのだろうが、地の民に技を教え、出来た物を取り上げるようになった。反抗する者は殺し、この地を支配するようになった」
「あいつらが支配しているのは分かってるけど、知恵とわざ技が怖いのはどうして」
「親父達が、新しい知恵と技を使って反抗し、新たな支配者になろうとするのではないかと疑っている」
「たった十五人で反抗しても、勝てる訳がないよ」
「十五人では勝てない。しかし親父達が仲間を集めればどうなる?たたらの衆も、海辺の衆も、狩猟や野辺の衆も、オロチ達のやり方に不満を持っているぞ」
「そうか、それで親父達は海辺と、この山以外には行けないのか」
「オロチ衆は親父達に何かを感じ、新しい道具造りをやらせた後は分散させて配下に置くつもりだったようだ。反抗すれば殺しただろう。しかし青銅造りができると知り、しぶしぶ全員で仕事をすることを認めた。仕事は許したが、移動は禁じたのだ」
漆黒の闇が山を包み始め、小屋から漏れる明かりだけが宙に浮いていた。
中では三つの竈を楕円形に取り囲んだ三十三人の顔が、揺れる炎に照らし出されている。フツシの隣に座っていた弟のムカリが口を開いた。
「みんな、親父達が、遠くへ行け!その地の子供達と友達になれ!と言った意味がわかっただろう。自分達は動けないから、俺達を使って様子を調べていたのだ」
フツシがそれを受けた
「そうだ。親父達は二十年かけてこの地を調べながら、俺達に知恵と技を教えてきた。そして準備を始める時が来たと考えた。」
フツシに対面する形で座っていた一七歳組のスキタが立ち上がった。
「フツシの話、俺も親父から何となく聞いてはいた。去年の暮れに俺達だけで暮らす話が出た時にも、何かをしろと言うことだとは感じていた。だが親父達が手を出せなかったオロチ衆を、俺達で討てるのか?」
フツシも立ち上がった
「俺達だから討てる。今から準備を始めるのだ。討つのは準備ができてからだ」
「俺達だから?」
「奴らが警戒しているのは親父達だ。奴らから見れば俺達はガキだ。ガキはそこら中にい る。つまり俺達が何処にいようと奴らは気にしやしない」
「ではなぜ俺達だけで山を仕切るのだ?」
「ガキだといっても俺達年嵩組は一人前だ。親父達に替わって仕事をして当たり前だろう。俺達が山で仕事をし、親父達は海辺で隠居仕事をしていれば、オロチ衆は余計な警戒はしない」
「ということは、製品は親父達と同じように作る訳だな」
「そうだ。同じだけ作り、同じだけ納め、残りをさばく。しかし、さばく場所を広げる。 親父達は湿地帯の向こうへは行けないが、俺達は何処へでも行ける」
「遊びに行くのは自由だが、製品を運んでいれば何か言うだろう」
「大量に運べば言うだろうが、一つや二つなら、友達に頼まれたから仕方なしに持ってきたと言えば通るさ」
「しかし、無理に奴らの目を引きつけるようなことをしなくてもいいのではないか」
「無理に奴らの目を引きつける必要はない。しかし、湿地の向こうから手に入れなければならないものがある。ハガネだ」
「なに・・・ハガネ。・・・武器造りか?」
「二年がかりでな」