表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スサノヲ  作者: 荒人
105/131

スガの森 二十

 翌朝、年嵩の組頭は、身内の警備兵士から声をかけられた。

「どうした?」

「夜中に、うちの組頭とコマキが、鳴子を張り直しに出かけたまま帰って来ない」

「なに、二人で出かけたのか?」

「いや、うちの兵士二人と、偵察組の兵士三人を連れて行った」

「どこの鳴子を張り直すと言ってた?」

「それは聞いてないけど、あの斜面の方に向かったそうだ」

 兵士は左の斜面を見ながら言った。

「おかしいな・・・襲われたか?分かった、見てこよう」


「なに・・・コマキとミシロと兵士五人・・・襲われたのか?」

 ワクリは組頭を見返した。

「うん、鳴子の張り直しをしている所を襲われたようだ。外側の鳴子が外されており、その辺りに血が飛び散っとった。死体を引きずったような跡もあった」

「死体を引きずった?」

 ワクリは怪訝な顔をした。

「コマキが、奴らの死体は全て持ち去られておったと言ってたが、それと関係があるのかな・・・兎に角、現場には死体はなかった」

 組頭は戦力が減ったことを気にする風もなく言った。

ワクリも同じだった。二人が欠けたのは痛いが、タブシの増員で埋められると考えた。


 昼過ぎ、ミシロが徴兵三十五人を連れて帰ってきた。

「ご苦労だったな。素直に応じたか?」

「いや、初めはぐだぐだ言っておった。しかし、敵は二十五人で、一気に叩き潰すには手勢が多い方が早いと説明したら、乗ってきた。その代わり条件を出してきた」

「条件とは?」

「上納を無しにしろと抜かした。こちらは急いでおったから、請け負って来たぞ」

「まあ、よかろう。それよりコマキとミシロが殺られたぞ」

「あの二人が?・・・手勢も増えたことだ、先々の厄介払いができたと考えればよいわ」

「儂もそう考えた。どうする、すぐにでも仕掛けるか?」

「いや、タブシに連れて行った連中は、徹夜の往復で疲れておる」

「そうだな、今日は休ませよう。では総攻撃は明日の朝だ」

 ワクリは残っている十二人の組頭を招集した。

「コマキとスハラ、それに兵士五人が殺られたことは知っておるな・・・少しでも手勢が必要な時に、馬鹿な死に方をした。だが、タブシからの三十五人で儂らは百六十七人となった。明朝総攻撃をかけて、垣の奴らを皆殺しだ」

 ワクリは、組頭達の顔を睨め回した。

「ところで頭、策は?」

 年嵩の隣の組頭が声を上げた。

「まず全隊が一の垣まで出張る、あそこは奴らの射程の外だ。そこから火矢をたっぷりと打ち込む。垣だけではなく、射手が潜みそうな茂みや木にも打ち込む。火が大きくなって、垣が崩れ始めた頃に全隊が突入する」

ミシロが説明した。

「敵は、火の手が大きくなれば、谷の奥に逃げ込むのではないか?」

 年嵩の組頭が疑問を呈した。

「その時は追う。奴らは慌てているから、足跡を消す暇はない。コマキのやり方で追えば、奇襲は防げる」

ミシロは自信満々で言い、ワクリを見た。

「シオツの連中はどこにおる?あの垣にいないとなれば、谷の向こうの森だな。垣の生き残りがそこに逃げ込んでも・・・時間の問題だな」

 ワクリが補足した。

「東へなら、逃げられるのではないか」

 別な組頭が言った。

「確かにあの高い山の方へなら逃げられる。だが間もなく雪が降る・・・飢え死にするだけだ。奴らは死を覚悟して仕掛けてきたのだぞ。この谷か森の中で討ち死にする」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ