スガの森 十九
中には、フツシの部下全員が揃っていた。
「よく来た。俺が頭のフツシだ。今からこの全員が仲間だ。あちらに防護服がある、体に合った物を選べ。それから俺達の武器を渡す。自分の手と力に合った物を選べ。弓はどうかな?」
フツシはコマキを見た。
「俺とスハラは一応射てますが、ここのみんなのような訓練はしていません。この五人は補充兵として徴兵された者ですから、俺達が訓練しただけです」
コマキは本当のことを言った。
「分かった。明日の午後には戦いが始まるが、できるだけのことを教えよう」
フツシは、兵士一人に同世代の二人がついて教えるように指示した。
兵士達の防護服をまと纏った姿は、もはやオロチ衆ではなかった。
その様子を見ながら、フツシはコマキとスハラそして小頭を炉の周りに集めた。
ツギルが互いを紹介した。
小頭達は、年長でもある二人の指揮振りを見知っており、敬意を持って接した。
「コマキとスハラを小頭とする。これで小頭が九人になった訳だ。二人の部下は前の組の者でいいな」
フツシが全員を見回した。
全員から同意の声が上がった。
「俺達は三十三人になった、敵は、タブシから三十人ばかり加わり、百六十人程度だ。明日の午後には火矢が打ち込まれる。火の手が大きくなった頃に突っ込んでくるだろうが、一気に全員が来るのか、波状で来るのか・・・コマキ、どう思う?」
フツシがコマキに声をかけた。
「百六十人として・・・十人の十六組に編成すると思います。これを正面と左右の、三つの攻撃隊とその支援隊に分けるでしょう。攻撃隊は二組、それが三箇所ですから六組です。
支援隊には三組を充てます。これが三箇所で九組、これで十五組です。残るひと組は頭の横に置きますね」
コマキがスハラを見た。
「スハラも同じ見方か」
フツシもスハラを見た。
「俺もそう思います。攻撃隊の二十人は、最初に目を付けた者だけを狙います。支援隊は、それを邪魔する者を組単位で阻止します。奴らが一番恐れているのは弓の攻撃です。大量の火矢を打ち込むのは、射場を無くすためです。」
スハラが応えた。
「なかなか考えたな。接近戦に持ち込み、数頼みで潰すということか・・・この戦法は、お二人が考えたのではないですか?」
ムカリが二人を見た。
「俺が考えました」
コマキが気まずそうに言った。
「やっぱり・・・一の垣で感じたんだ。体力の無さそうな者だけを追いかけていた。そのお陰で、俺は横から何人も殺った。確かに、あとから入ってきた連中に邪魔されたが、奴らは俺を仕留めようとはしなかった」
ムカリは屈託無く言った。
「頭、同じ戦法は通じないと言ってましたね。この攻撃に対抗策があるのですか?」
スハラが尋ねた。
「スハラ、俺達の戦垣はここだけだと思っているのか?」
フツシがツギルを見た。
「俺達はここで、できるだけ敵を減らすつもりですが、決戦はもっと奥です。ここを死守する気はありません」
ツギルが言った。
「明日は犠牲を出したくはない。敵がいきり立って来れば、もぬけの空とする。空だと知って気を抜けば奇襲するつもりだ。だが、こちらに犠牲が出そうなら手は出さない。アスキ、二人に垣の中を案内して逃れ口を教えろ。それから奥までの地形を説明しろ」
フツシはアスキに命じると、少年達の訓練の中に入って行った。
その背中を見ながらツギルは立ち上がり、ムカリとスキタに目配せした。
三人は数個の革袋を手に、扉を開けて出て行った。
それを見ていたコマキとスハラに、アスキが言った。
「適当な所に獣の血を撒きに行ったのです。二人は、俺達に襲われて死んだことになる」