スガの森 十八
コマキとスハラは斜面を登り、殿から陣に戻った。
「鳴子に手を加えたい所がある。うちの組とコマキの組で手分けしてやることになった」
スハラは当番兵に言いながら人選した。
命じられた兵士が駆けつけた所に、コマキが三人を連れてきた。
二人を先頭に、五人の兵士は斜面に向かった。
これまでこのような事はなかった。
しかし、総攻撃を仕掛けた日のことでもあり、見送る当番兵は疑念を持たなかった。
コマキとスハラは、外側の鳴子に沿いながら谷の奥へ向きを変えた。
二人を信じ切っている五人の兵士は、黙々とついてきた。
鳴子を跨いで外に出た時、兵士達の間に緊張が走った。
だが歩調を変えず歩く組頭の様子に安心し、緊張は消えた。
一の垣に近づくに従って再度緊張が高まった。
その時、コマキが振り返った。
「死体が転がっているから、躓くなよ。危険はないから、足元だけ気を付けろ」
いつも通りのコマキの口調だが、兵士の間に戸惑いが生じた。
「危険はない。安心しろ」
スハラが立ち止まって兵士の進行を促し、自分は最後尾についた。
二の垣を越えたところでコマキが止まり、兵士を集めた。
「そこにあるのが三の垣だ。今夜、俺とスハラはこの中に入り、ここの頭と話した」
予期しないコマキの言葉に、兵士達は顔を見合わせるだけだった。
「俺とスハラは、ワクリとミシロに従うことをやめた」
星明かりの中でコマキは言い放った。
「ここの頭は、地の民と渡来の民が手を結ぶ新しい秩序を創るために戦いを始めた。そのために二年の準備をしていたのだ。手際のいい戦いぶりはそのためだ」
兵士達は、息を詰めてコマキの顔を見つめた。
「ところがワクリとミシロは、お前達を訓練もせずに兵士にした。あの二人と組頭達は、大頭達のお宝の分配しか考えていない」
コマキがスハラの同意を求めた。
「コマキの言う通りだ。俺達は、そんな奴らのために命を懸けるのが馬鹿らしくなった。
同じ命を懸けるなら、ここの頭と、新しい秩序を創るために戦う方がいいと考えたのだ」
スハラは、兵士の顔をゆっくりと見ながら話した。
「お前達は、俺達を信じて命を預けてくれた。それに他の組頭達の身内ではない」
スハラは一人一人に確認を求めた。
スハラと目があった兵士達は、頷いた。
「お前達を無駄死させたくない・・・俺とスハラはこの陣に入る。その時から、あの陣の者は敵になる。俺達に命を預ける者は付いて来い。そうでない者は帰れ」
言うとコマキは、内側に開かれた三の垣の入口に向かった。
「俺も入るぞ」
スハラは、もう一度全員の顔を見回し、コマキに続いた。
唖然としていた兵士達の中から、一人が中に走った。
更に一人が入った。
残った三人は顔を見合わせていたが、垣の中に消えた。