スガの森 十五
作戦会議が始まった。
コマキとスハラは、持ち帰った敵の武器をワクリの前に並べた。
「槍の穂先も剣も、鋼だ・・・どの山が流したのだ?」
ミシロが、剣を手にとって怒鳴った。
「今は、鋼の出所などどうでもいいことです。敵は、この戦いのために工夫した武器を使っています。鏃もそうでした。敵の犠牲が少なく、こちらが多いのは、武器と訓練の違いです。それに奴らは死ぬ気ですから、一人でも多く道連れにしようとします。これもこちらの犠牲が多い理由です」
コマキは、槍と短剣を手にして唸っている組頭達に向かって言った。
「今日の戦いで十二人を倒せたのは、一人に集中攻撃をかけたからです。この様な武器を持って素早く動き回っても、疲れればこちらのものです。我々がこうしている間、奴らは休息をとっています。俺は休む時間を与えたのは、今でも失敗だったと考えています」
スハラが、ミシロを直視して言った。
コマキ、スハラとミシロの間に不穏な空気が流れた。
「敵がこの様な武器を持ち、訓練を積んでいることが分かった。二十五人が垣の向こうに潜んでいる。どうやって叩き潰すか・・・ 誰でもいい、考えてきた案を出してくれ」
三人の話を無視して、ワクリが言った。
声を上げる者は無く、重苦しい沈黙が続いた。
「これだけおって、一人も案がないのか?」
ワクリが苛立った表情で声を荒げた。
「儂らは、組を率いて指示に従う立場だ。どう攻めるかの指示を出すのは、頭と小頭だ」
年輩の組頭が言い放った。
他の組頭達からも同意の声が上がった。
「指示は儂が出す。だがその前に、お前達が何か策を思いついたのではないかと聞いてみたのだ・・・では、明朝策を伝える。解散だ」
組頭達は立ち上がり、持ち場に向かい始めた。
「スハラとコマキは残れ」
ワクリが立ち上がって、二人に声をかけた。
「お前達二人で、明日の朝までに攻撃案を作れ」
引き返してきた二人に、ワクリは小声で命じた。
「案は出しました。あれ以外に思いつきません。小頭が考えつくのではないですか。警備体制を敷かなければなりませんので、行っていいでしょうか?」
コマキはワクリが断れない理由を押し立てた。
「警備・・・よし、行け。警備をしながら策も考えろ」
ワクリは、黒々と沈んだ戦垣の方を見ながら渋々了承した。
「ミシロ、策の練り直しを主張したのはお前だ、どう練り直すのだ?明日の朝には策を示
さねばならんぞ。スハラとコマキがへそ臍を曲げてしまったからには、お前と儂とで考えなければならん」
ワクリは、ミシロの顔を覗き込んだ。
「儂に案など無い。あの二人が何か出すと思っておった」
ミシロはさらりと言った。
「お前は、腹案を持っていたのではないのか?あの時なぜ二人に反対したのだ」
ワクリの声は怒気を含んでいた。
「あの時二人の言う通りに仕掛けて、敵を全滅させたとしよう。そして、二人と儂らの五
十人ほどが生き残ったとしよう。兵士達は、いくさ戦の主導者は儂らではなくあの二人と見る
ぞ。そうなれば本当の頭を決める時、どうなる。二人の言うなりになってはいかんと思ってな」
ミシロは、狡猾な目をワクリに向けた。
「馬鹿な、負ければ新しい頭など無いわ・・・勝つことを考えろ」
ワクリの怒気が増した。
「何を怒っている?妙手がなければ、今日の通りに攻めればいいではないか。今日は火の手が大きくなる前に突入させたから、被害が大きくなったのだ。次は、火矢をたっぷり打ち込んで火の手が大きくなるのを待つ。それに射手がいそうな所へも打ち込んでおく。そうすれば接近戦がやりやすくなる。あとは時間と人数の問題だ。その人数だがな、タブシからの徴兵を思いついた。使える者が三十人はいるはずだ。そいつらを合わせれば、こちらは百七十人だ」
ミシロは自信満々の表情で言った。
「ふむ、練り直しは・・・増員と、火矢の数と、火の手が大きくなってから突入するというところだな。よかろう、それで行こう。で、タブシの徴兵は・・・すんなり従うか?」
ワクリの声から怒気が消えていた。
「儂が行って連れてくる。兵士を五十人ばかり連れて・・・今から出かけよう。明日の昼までには戻れる」