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魔界の港町

 襲われていた荷馬車を操っていた人物とトーラスが何かを話していたようだが、すぐに荷馬車に乗っていた人物はひれ伏した。そこには二人の人物がいたようだ。

 魔王軍はその横を何事も無かったかのように通り過ぎる。アベルはすれ違いざま、地に伏していた人物を馬車の中から見送る。俯いていたが、それは人間の親子のようだった。父親と息子だろうか、それとも、顔を上げるとやはり魔物の顔だったのかは分からないが、馬車の中から見えるその二人の人物はとても弱々しく、小さく見えた。


「人間ですよ」


 アベルの心を察したように、フェイは呟いた。驚いてフェイの顔を見つめる。


「どうやら行商人の親子だったみたいです。森の中で魔物に襲われたのでしょうね」

「やっぱり人間か。この国にも人間っているんだな……」

「何を言っているんですか。城下にも住んでいますし、メイドも人間だったでしょう。それに、アベル様も人間ではないですか」


 呆れたように言われたが、アベルには納得と驚きが同時に訪れた。確かに、メイドも人間だった。魔王城での会議にも、人間の見た目をした人物が居た。しかし、本当に人間かどうかは分からなかった。姿こそ人間だが、中身は別の生き物かもしれないとさえ思っていたのだ。ちなみに会議の司会を務めていたデイビッドは人間のような見た目だが人間ではないと聞かされていた。

 そして、自分が人間だと認識されていた事にも驚いた。仮にも魔王である自分が人間で良いのかと疑問に思う。


「別に、魔王となるのに人種の制限はありませんよ」

「そうなのか?でも、魔王って普通は魔族とか、悪魔とかがなるんじゃないの?それに、魔王って言ったら魔界で一番強い奴とか……もしかして俺って超強いとか?」


 自分の掌を見つめてみた。自分にはあんな戦いは出来ないと思ったが、こういった異世界に来た事で、何らかの力に目覚めているかもしれないと思った。


「アベル様の常識がどういうものか分かりませんが、違います。魔王は職業や称号のような物です。魔王として降臨されたのであれば、それが人間でも魔族でも、他の種族でも関係ありません。それと、アベル様が強いかどうかは分かりません。強い方が有難いですが」


 きっぱりと否定された。そして強さに関しては曖昧だったが、恐らく自分は弱いと直感的に感じていた。少なくとも、元の世界に居た頃と身体の感覚は変わっていない。先刻に見た魔王軍と魔物との戦闘に自分が付いていけるとは到底思えなかった。異世界に来たからと言ってタダで強くなるって事はなさそうだ。


「そういうものか。でも、俺みたいな急に現れた人間が魔王になるのって、さすがに変じゃないか?」

「魔王は長年不在でした。先代の魔王には後継者がいませんでしたからね。それに、魔王の適合者が現れなかったので、召喚の儀を行ったのです。召喚された者は魔王です。それは皆が納得しています」


 自分の持つゲームや漫画の知識には無い魔王のシステムがこの世界にはあるらしいと思った。そして、適合者という言葉に若干疑問を持ったが、街が見えたという報告を受けて聞けずに終わってしまった。


 森を抜け、街に着く頃にはすっかり日も暮れていた。


「今夜はこの街に一泊します。明日には船に乗りますので、今夜はゆっくりと休んでください」


 フェイに促されて馬車を降りると、そこは港町の外れだった。これまでの道中から街にもあまり期待はしていなかったが……街の作りは思った以上にしっかりとしていた。

 石畳の街路に、木造と石造りの建物がひしめく町並み。辺りは暗くなっていたが、酒場や宿などの明かりが灯っており、外を歩く町人らしき人間や魔物が見えた。


「結構、普通の街って感じなんだな……」


 荒れ果てた街を想像していたが、思ったよりしっかりとした街並みに驚いた。そして改めて思った事だが、普通の人間が結構いるようだ。見た目が人間で実は魔物なのかもしれないが、先程の行商人の事もあったので人間だと素直に感じた。

人間と魔物が共存するその風景は、アベルにとっては衝撃だった。


「魔王軍と人間って戦争してるんじゃないのか?」

「今戦争をしているのは、あくまでもファラデルとアストラルです」


 人間全てが敵と言うわけではなさそうだ。色々と知らなければならない事があるのかもしれない。


 比較的大きな宿に入り、食事をしてから、その日は眠った。

 宿は貸し切りにしてあったのか、他に人は居なかった。料理はそこまで美味しいものではなかったが十分に満足できたし、部屋のベッドや布団はなかなか快適だった。




 

 翌朝、鳥の鳴き声と、遠くに聞こえる賑わいの声に目を覚ました。窓の外を見ると辺りはまだ薄暗かったが港には市場が出来ておりそれなりの賑わいを見せていた。

 遠目でも分かったが、市場には人間と魔族、獣人が入り乱れており、小さいながらも活気が伺えた。ここでも様々な種族の共生が見えて驚きの連続だった。


 アベルはなんとなく気になって市場へ向かってみる事にした。軽く着替えを済ませて宿を出る。肌寒い空気が全身を覆い、軽く身震いしてから市場の方角へ歩みを進めようとした。宿の入り口の横にはトーラスが立っていた。


「護衛も付けずに出歩かれては困ります」


 突然声を掛けられてドキッとしながらも、しゅんとなってトーラスの顔を見つめる。トーラスは呆れたように軽くため息を吐きながらアベルに歩み寄った。


「フェイ殿の言う通りになるとは……まあ、良いでしょう。今日は私が市場を案内します。ですが、今後は気をつけてください」


 どうやらアベルの行動はフェイに筒抜けだったようだ。そして見張りとして宿の外にトーラスを配置したらしい。


「俺ってそんな単純なのかな?」

「どうでしょう?私は予想していませんでした。フェイ殿が凄いだけかと思います」


 トーラスは少し楽しそうに話した。狼のような顔をしており、細かな表情は伺えないが、それでも楽しそうと言うか、笑った顔は分かるものだと思った。気のせいかもしれないが、フェイもトーラスも自分に対する口調は似ているが、トーラスからはフェイと比較して優しさのような物を感じる。

 先導するように歩くトーラスは獣人だからなのか、着ている甲冑のせいかは分からないが力強さを感じた。それと同時に繊細さを感じる不思議な人物だった。


 市場の入り口まで来ると、磯の香りと同時に露店から香る良い匂いがした。アベルは市場と言うものを初めて見る。元の世界でも市場がどんな所なのか行った事は無かったので分からないが、少なくともこの世界の市場は調理された食べ物も豊富に揃えている事が伺えた。

 アベルにとって港の市場とは氷の上に並べられた鮮魚くらいしかイメージが沸かなかったが、露店には調理された食べ物や様々な雑貨も並んでいた。印象としては想像通りの市場半分、縁日のような屋台半分といった感じだ。


「お、トーラスさんじゃねえか。寄ってきなよ」

「トーラスさん、お久しぶりだねえ。これ良かったら持っていっておくれ」


 意外にも活気のある市場で、意外にもトーラスは人気者だった。

 初めての異世界での朝市に感動していると、遠くからこちらに向かって小走りに歩み寄る二人の人物がいた。


「お姉様ー!」


 叫びながら二人はトーラスに勢いよく抱きついた。

 駆け寄ってきたのは十代半ばくらいの女性二人組だった。一人は長い黒髪に白の服装をした清楚さを感じさせる少女。もう1人は赤い髪を後ろで束ね、動きやすい格好をした快活そうな少女だ。

 アベルはその光景に驚いて声すら出なかった。


「二人とも、久しぶりじゃないか。元気にしていたか?」

「お姉様ったら、この頃全然いらっしゃらないんですもの」

「今度は暫く居られるんですか?」


 アベルを蚊帳の外にして和気あいあいと話すトーラスと少女たち。そんな平和な光景をアベルは見守っていた。

 トーラスが“お姉様”と呼ばれている事に驚いたが、それとは別にもう一つ驚いた事があった。それは赤髪の少女である。少女たちは人間の見た目をしていた。しかし、黒髪の女の子は普通の人間であるのに対し、赤髪の少女を良く見ると一件普通の女の子のように見えたが、猫のような獣耳と尻尾が生えていた。獣人であるトーラスは明らかに顔が狼のような獣の姿をしているのに対し、この少女は半分と言うか、普通の女の子が猫耳に尻尾を付けたコスプレの様な姿をしていた。


「これから大陸に向かう。戻ってきたら少しゆっくりするとしよう」

「えー、もう行ってしまわれるのですか?」

「気をつけて下さい、お姉様!」


 しばしの間、少女の耳と尻尾を観察している間に話を終えたのか、少女たちは街の方へと歩いていった。


「失礼しました。あの娘たちはこの街に住んでいる知り合いです」

「凄い人気だな。トーラスはこの街出身とか?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、皆が良くしてくれているだけです」


 なんとなく深く聞く気はなかったし、聞いても今の自分には分からないだろうと判断して話題を変えた。


「そう言えばさっきの女の子、赤い髪の子は、獣人……なのか?トーラスとはその、見た目が随分違うみたいだけど」


 一瞬、戸惑いながらも聞いてみた。トーラスのような獣の顔をした獣人と、獣耳と尻尾だけのような半分人間のような獣人がいるのか気になったのだ。


「ええ、あの子はネコ科の獣人です。獣人の見た目には大きく二つの種類が存在します。あの娘のように人間をベースに獣の特徴を残した姿が一般的ですね。私のような姿は、ある程度の強い身体能力と魔力がある者に多いのです」


 言われてから市場を良く見て見ると、確かに帽子や髪の毛で隠れていたり見えづらかったりはするが、人間のような見た目で獣耳を持つ者が沢山いた。逆に、トーラスのような姿をした者は見当たらなかった。城の中ではトーラスを中心に、獣の顔を持った者しか見なかった為、獣人とはそういうものと思い込んでいた。


「獣人はある程度の力や魔力を持つと変身できるようになります。この姿の方が戦闘能力が高いんです。そして、この姿を維持できる獣人はそう多くありません」


 トーラスは獣人に関して簡単な説明をしてくれた。獣人は強い魔力で獣化出来るらしい。完全な獣の姿にはならないが、トーラスのように獣をベースとした見た目に変化するのだ。

 そして、この姿を維持するには相当な鍛錬が必要らしいのだが、この姿でいる間は常に臨戦態勢と言って良い程に身体能力が向上する。その他にも、満月の夜に魔力が増大し、その時だけ変身出来るという狼男のような獣人も存在するそうだ。奥が深い。


「もう一人の娘は?人間……だよな?」

「ええ。あの娘は人間です。あの二人は仲が良いのでよく一緒にいるんですよ」


 何故か嬉しそうにトーラスは答える。


「お、トーラス姉さんじゃねーか!また店に寄ってくれよ」

「ああ、帰ってきた時にゆっくり寄らせてもらうよ」


 今度は赤褐色の肌の魔族が話しかけてきた。この街は人間、獣人、魔族、それぞれが仲良く暮らしている。そしてトーラスはその全ての人種から好かれているようだ。城で魔族の男と言い争いをしていた為、獣人と魔族の仲は悪いのかと考えていたが、そうではないらしい。

 この平和な街を見て、アベルはこの世界の事を、さまざまな人種の事をもっと知りたいと思った。それと同時に、自分達は戦争をしているという事実に頭を悩ませ、もっとこの世界を知らなくてはならないなと考えていた。

更新にかなりかかりました。

書きたい事がまとまらなかった為、だらだらと書いてしまった…

でも、今のうちに世界観を説明しておかないと後が続かないので書いてみました。

思いつきで書いていると難しいですね。

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