えんかうんと?
早朝に軽い食事を取って、アベル達は港へと旅立っていた。
数は約20名。アベルとフェイは馬車に乗り、その他の者は馬に乗っている。その数が多いのか少ないのかもアベルにはわからなかったが、その殆どが全身を鎧に包んだ騎士や獣人、魔族といった異形の姿をした人物ばかりで人数以上に圧倒された。その中には昨日の仮面の道士と獣人トーラスの姿もあった。
「百鬼夜行……とは違うが、凄いな」
「ひゃっき? なんですか?」
ぽつりと漏らす聞き慣れない言葉にフェイは反応を示した。
「いや、なんでもない。それにしても、荒れてるな……」
なんとも説明しにくいと感じて、馬車の窓から外を見つめ、話題を逸らす。
窓の外の風景は、乾いた大地が広がっていた。遠くに所々、草木が見えるがとても弱々しく見えた。
城下町を出て暫くは森があったが、その森を抜けて少し進むと、どんどん荒れた景色に変わっていった。
「この辺りは植物が育ちませんからね。砂漠と違い、気温は高くありませんが……魔国と呼ばれるこの島には珍しい景色ではありません」
島のおよそ半分がこんな荒野になっているらしい。この島は決して豊かではないのだなと思った。
そんな風景をぼーっと眺めていると、前方が騒がしくなった。
「魔物が現れたようですね」
慌てる様子も無く、フェイはどこからか取り出した本を読んでいた。
「え、どういう……」
直後、大きな爆発音が聞こえた。
アベルは馬車の扉をあけ、身を乗り出して前方を確認する。すると、前方には3メートル前後の人型をした巨大な岩の塊のような……いわゆるゴーレムが二体いた。うち一体は既に倒され、地面に伏している。
前方にいた獣人の一人が大槌でゴーレムの脚を叩く。ゴーレムは一瞬体勢を崩したが、すぐに立て直し、獣人に大振りの拳を薙いだ。それを大槌で弾き、後方に飛び退く。そこに魔族の一人が炎の魔法を打ち込むと、着弾地点が爆発し、ゴーレムが崩れ落ちる。
戦闘は一瞬だった。魔王軍の兵達は何事も無かったように馬に戻り、すぐにその場を後にした。
「なあ、あれは魔物……なのか?」
「そうです」
「なんで襲ってきたの?」
「魔物ですからね」
何を当然の事をといった顔で見つめてくる。聞きたい事はそういう事ではなかったのだが、この世界は魔王であっても魔物に襲われる世界なんだなと漠然と思った。
馬車が動き出し、ゴーレムの残骸を窓越しに見つめた。
「普通、最初はスライムとかゴブリンだと思うんだけどなぁ……」
独り言をぼやきながら、自分を護衛してくれている魔王軍の強さを実感した。アベルにとってはなんだか複雑な気持ちでもあった。
夕方になり、空が赤く染まってきた頃に森が見えてきた。この森を抜けてすぐの所に街があるらしい。
森に入る直前で馬車がゆっくりと停止した。フェイが御者台に確認すると、どうやら魔物の気配を察知して戦闘の護衛が停止したらしい。
馬車が完全に停止し、程なくして森の中から荷馬車がもの凄い勢いで出てきた。その後方から大きな獣が荷馬車を追いかけている。
その獣はライオンのような頭に山羊の身体、尻尾が蛇になっている異形の生物だった。
「おいおい! あれってキメラか?」
「そのようですね」
アベルは驚いていたが、フェイは至って冷静だった。キメラはアベル達一行に気付き、大きく雄叫びを上げる。
キメラの登場に対し、魔王軍は冷静だった。いち早くキメラの気配に気づいたのはトーラスだ。彼女は馬から降り、背中に背負っていた大きめの盾を構えた。
標的を荷馬車から魔王軍に切り替えたらしいキメラは、立ち止ったかと思うと大きく息を吸い、口から炎の玉を吐いて攻撃してきた。
炎は荷馬車の横を通り、アベル達の方へ向かってくる。どうやら標的をこちらに切り替えたようだ。
「はあーっ!」
トーラスが一括し、盾でキメラの火球を防ぐ。すると大きな爆発が起き、荷馬車を引いていた馬が驚いて停止する。
爆炎が収まると、煙の中から無傷のトーラスが現れた。
「ふん、煤けてしまったではないか」
トーラスは無傷でキメラの火球を防いでいた。その様子を見て、キメラは怒りを露わにし、再び魔王軍へ向かって走り出した。
しかし、トーラスはそのまま振り返り、自分の馬の元へと歩き出す。
「後は任せるぞ」
そして騎士の姿をした護衛二人が全力で馬を走らせ、荷馬車の横を通り過ぎてキメラを迎え撃った。
一人が槍で攻撃をするが、キメラはそれを高く跳んでかわした。キメラが着地する瞬間を狙ってもう一人の騎士が剣で攻撃をする。キメラの身体に傷を付けたが致命傷には至らなかった。
今度はキメラが再び炎を発して剣を持った騎士に攻撃をした。馬に乗った騎士はそれをギリギリの所でかわす。
剣で攻撃する騎士と、鋭い爪や炎で攻撃をするキメラ。互角の様だが、少し騎士が押され気味に見えた。しかし、次の瞬間、キメラの真下にある大地が隆起し、キメラの胴を貫く。持ちあがったキメラはそれでもなお、炎を口に蓄え放とうとした。そこに追い打ちをかけるように、物凄い速さで槍がキメラの口の中を貫いた。最初に攻撃を仕掛けた槍使いが投げたものだ。
少し警戒しながらキメラの絶命を確認し、騎士達は本体に合流した。
「強い……」
ハイレベルな戦いに、アベルは目が離せなかった。咄嗟の連携から素早い動き、騎士の卓越した馬術と剣技、そして土を操った魔法や槍のタイミング、狙いの正確さ。本来、ゲームで言えば魔王軍直属の兵士はラストダンジョンやその間近の強敵である。中ボスレベルの相手かもしれない。そんな強者の戦いを、この世界に来たばかりのアベルは目撃する事となったのである。
――これが魔王軍の強さか……本来ならラストダンジョンで待ち構えているハイレベルな奴らなんだろうしな――
自分を守ってくれているという心強さと共に、この巨大な力は人間に向けて放たれる事になるんだろうと考え、恐怖も覚えた。
説明が長くなってますね。
とりあえずバトルシーンを入れておきたかっただけです。