かるちゃー?しょっく!
説明が多くなってしまったので、敢えて長くして間にこんなどうでもいい話を挟みました。
たまにこういう話を入れていきたいなぁと思っています。
テラスでの顔見せが終了した後、フェイとメイド服の女の子二人に連れられて、魔王の部屋であるという一室に来ていた。
かなり広い部屋だが、大きなベッド以外には、ソファが置いてあるだけで、部屋の面積が余りまくっている。
メイド達は着替えを用意すると言い残し、深く一礼してから退室していった。
「お疲れさまでした。急に色々とあったので大変でしょうが、すぐに作戦会議が始まります……アベル様?」
フェイが訝しげな顔で語りかけてきた。
「あの……いまいち理解が出来ないんだけど……それに、俺はアベルじゃなくて……」
名乗りかけた所でフェイがすぐ近くまで歩み寄り、男の口に人差し指を当て、言葉を遮った。
フェイの美しい顔がすぐ近くに来て、ドキッとする。
「貴方は魔王アベル様です。私の術は完璧でした。今はまだ、貴方に自覚が無くても、貴方は魔王として我々を導く運命なのです」
そんな事を言われても困る。よりにもよって魔王である……
反論しようとしたが、捲し立てるようにフェイは語った。
「それに、もし貴方がアベル様でなければ、貴方を呼ぶ為に“生贄”となった魂が報われません……」
少し寂しげに目を伏せるフェイ……
その瞳には悲しみが浮かんで……
「いや、おかしいから!」
一瞬、雰囲気に流されそうになったが、だからと言って受け入れられる内容では決してなかった。
フェイは事もあろうに舌打ちをして残念がった……性格がいまいち掴めない。
それに、何気に恐ろしい事を口にしている……生贄……?
「アベル様の降臨の儀式は、何年もかけて準備し、多くの犠牲も払いました。もし貴方が魔王としての責務を全うできないのであれば……また生贄を用意して魔王降臨の儀式を行わないといけません」
フェイは自分達を導く魔王という存在に対し、表情を変えることなく平気で脅しをかけてきた。とんでもない性格をしている。
そんな説明をされても納得は出来ない。出来ないが……非常に正義感の強い性格もあって、その生贄という名の犠牲を払わせる気も無かった。彼にとってフェイの言葉は図らずとも効果的なものとなっていた。
何と反論していいかも分からないし、この世界で自分は何をどうしていいのかも分からない。そしてとりあえず思い付いた事を口にした。
「この世界での俺の名前がアベルっていうなら、もう名前はそれでいいよ。だけどな、俺は悪い事はしないし、皆にもさせたくない! だから魔王なんて無理だ!」
フェイに向かって吐き捨てるように言い放った。目には強い決意と覚悟の色が浮かんでいた。
どちらかというと英雄や勇者のような存在に憧れているタイプだ。魔王にされて悪事を働くなんて絶対にごめんだった。それに、この城や城の周りに居る魔物や魔獣達にも、悪い事なんてさせてたまるか……そう思っていた。
フェイは一瞬、何か考えるように首を傾げ、疑問を口にした。
「なぜ、悪い事をするんですか?」
「……へ?」
想定外の疑問をぶつけられ、言葉に詰まり、思わず聞き返してしまった。
その時、部屋にノックの音がして、先程のメイド達が服と姿見を持って入ってきた。
「とりあえず、着替えてください。すぐに会議が始まりますので、同席して頂きます」
色々と分からない事だらけだったが、強引に着替えをする流れに持って行かれてしまった。
それにしても、先程までは目に入るものが新鮮すぎて自分の格好なんてあまり気にしていなかったが、部屋にあった姿身を確認してみると、学校の制服を着ている。この世界に浮きまくった格好だ。
メイドに軽く礼を言ってから、用意された服を受け取ろうとした。すると、メイド二人は首を傾げた。そして、服を手に持っていた黒髪のメイドが口を開く。
「あの、魔王様? お着替えを……」
「え?ああ、うん。だから、はい」
着替えを受け取ろうと、手を出す俺と、それを見て困惑するメイド。そして、意を決したかのように、もう一人の赤毛のメイドが近付いてきた。
「し、失礼します」
軽く礼をしたかと思ったら、服に手をかけて脱がし始めた。
「うええええ!?」
アベルは驚いて後ずさり、ベッドに足を引っ掛けて仰向けに倒れ込んだ。
「も、申し訳ございません!何か失礼をしましたでしょうか?」
そして、ようやく気付いた。着替えを手伝おうとしてくれていたらしい。
慌てて上半身だけを起こし、顔を真っ赤にしながら手を振って答えた。
「い、いや、大丈夫、着替えは自分でするから! だから部屋の外に出ててくれ!」
メイド達は顔を一瞬驚いた顔をしたが、顔を見合わせてから頷くと、着替えを置いて急いで部屋を出ていった。
アベルはその姿を確認してから深くため息を吐き、服を脱ぎ始めた。上半身を脱いだところで、自分の体を見た。特に変わった様子は無く、普通の人間の身体だった。魔王と言っても自分が魔物のような姿になっていない事に少し安心した。
「アベル様は恥ずかしがり屋ですか? 自分で着替えるならそう言えば良かったのに……メイドも可哀想ですよ」
腕を組んだポーズで溜息を吐くフェイと目が合った。
「お前もだー!」
再び顔を赤くしたアベルは、フェイを部屋の外に追い出す。
カルチャーショックとか以前の問題に対し、この世界に順応していけるかのか不安になる。
先が思いやられた。