愁い
誰にも言えなかった話。
ねっ。
聞いて。
いいじゃない。
ほんの少しだけなんだからさ。
ねっ。
お酒の席だし。
ぶっちゃけ話。
聞きたいでしょ?
女のぶっちゃけ話、どうよ。
うん、ありがと。
彼方、わざと興味なさそうな顔をしてるね。
うん、解ってるよ、解ってる。
ふぅ。
えっ?
あ・・・また・・・。
彼方は構わなくていいよ、いつものことなんだから。
ふぅ。
おじさん!
いきなりしゃしゃり出てきて、説教たれないで。
ね、私、大人、ちっちゃいナリしてるけど。
R18以上なの私。
酒場出入り自由のフリーエージェント。
大人・・・大人・・・ニホンゴワカリマスカ?
免許ミセマショカ? シャチョサーン!
えっ・・・あ・・・以外に乗っかってくるねおじさん。
ノリのいいのは好きだけど。
うん、ごめん、なんか、ごめん。
・・・バイバイ。
ふぅ。
お笑いブームなんて、大ッ嫌い!
ふぅ。
えっ?
ああ、ほら、やっぱり興味がある。
ねっ。
解ってる解ってる。
うん?
そりゃ解るわよ。
十何年ぶりだけどさ。
彼方だって、私の顔一目で見分けたしさ。
私も子供の頃を彼方を知っているだけだから。
余計なイメージを持たずに済んだのよ。
子供の頃と、彼方は瓜二つ、だからわかるの。
うん。
そういうことってあるよ。
うん。
だから、同窓会って不倫が発生しやすいのよね〜。
「本当の私を知っている」
なんて、思い込んじゃってさ〜。
彼方は家庭を築いても不倫する、必ず。
うん、私には解るよ、わかっちゃってんだから。
うん? ううん・・・。
話すよ。
うん。
ほら、えっと、うん、あれ。
私たちが小学生の頃・・・いくつだっけ?
いいや。
うん。
あれ。
ア―レ!
オ―レィ!
うん。
彼方、妹いたじゃない。
赤ん坊、皆に見せびらかしてたでしょ?
うらやましかったな。
うん。
おもちゃだとか、そんな感じじゃなくて。
うん。
あれね。
赤ちゃん盗んだのあたしなんだ。
なんでって・・・ねぇ。
うん。
これから話すよ。
面白いよ〜。
うん。
だから。
怒りを堪えるのやめなよ。
場所?
だって、ここなら。
突然彼方が飛び掛ってくることが無いから大丈夫でしょ?
周りに人居るし。
さっきのおじさんなんて、胸板厚くない?
ねっ? 興味ない?
うん。
あっ、でも。
これは後から思いついた理由だから、気にしないで。
御免ね。
うん。
盗んだ。
御免ね。
あっ、でもね。
お母さんも喜んでくれたよ。
アレね、私も妹か弟が出来そうだったんだけど。
お父さんがね、一人で十分だからって。
中絶させられちゃって。
ねっ。
お母さんのためだったんだ。
あっ、これも後から思いついた理由だから、気にしないで。
でね。
え〜っと。
ああ、その時すでにお父さんと別居してたから。
すんなり、私の家族になったんだ。
ゴメンゴメン、アハハハハ♪
うん。
ふぅ。
お酒! お酒、いらないや。
私は真面目だよ、だからお酒なんて飲まない。
うん。
結構、警察の人居たな。
私服の人も解ったよ。
私、目ざとい子供だったから。
うん。
アレ、でも、家はそんなにマークされてなかったんじゃないかな。
ほら。
後で気付いたんだけど。
赤ん坊を盗むと警察は、薬局とかスーパーとかコンビニとか見張るのよ。
オムツとかミルクとか色々必要になるじゃない。
私のお母さん。
ほら、あの、溜め込んじゃってたから。
うん。
それに、ホラ。
ランドセルおじさん!
ハゲでデブで短パンでいつも赤いランドセルしょってて。
逮捕されちゃったよね〜。
いたよね〜そんなの。
うん。
あっ、そうだ、思い出しちゃった。
彼方の泣き顔。
アハハハハ♪
その頃は私の体の方が大きくてさ。
赤ん坊が居なくなった時。
私の胸の中でワンワン泣いて。
ギュって抱きしめて。
エヘヘヘ。
うん?
嘘なんかついて無いよ。
だって、私何も言わなかったじゃない。
何も言わなかった。
慰めてなんかないよ。
もう。
勝手な想像はよしてよ。
そういうの嫌われるよ。
恋人と言った言わないの大喧嘩。
そんなのヤでしょ?
私は何も言わなかったの。
おじさんが捕まってくれたし。
なんだかおじさんの家から骨も見つかったみたいだし。
たしかアレ、犬の骨なんかじゃなかったっけ。
うん。
でも。
バレるといけないから。
やっぱり引越ししなくちゃいけないじゃない。
ホラ、理由なんていくらでも。
「こんな恐ろしい町には居られません」
とか。
うん。
理由なんていくらだって作れるんだ。
事実にちょっとだけ手を加える。
それでいいのだ―!
んっ?
誰だ―小声でバカボンって言った奴!
ふぅ。
お酒・・・飲まない・・・お酒・・・飲むもんか!
ふぅ。
うん?
えーっとね。
赤ちゃん。
甘い香りがしたよ。
肌も滑々で、白く透き通ってて。
うん。
ねぇ、彼方も、いい臭いがする。
うん♪
えっと。
引越し先で家族三人仲良く暮らしましたとさ。
おしまい。
えっ。
ブー。
わかったよ。
うん。
楽しかったよ。
私がね、ちゃんとオシメを換えたりミルクを飲ましたり。
可愛かったよ。
うん。
一緒にお風呂に入って、一緒の布団で寝て、一緒に遊んで。
私にずっと、ぴったりで、すっごく甘えん坊で。
うん。
おっきくなっても、二人は仲良しで。
彼女の方が私の背よりずっと大きくなったんだよ。
彼方はお父さん似なのよって、お母さん嘘ついた。
うん。
一緒にお風呂に入って、一緒の布団で寝て、一緒に遊んで。
うん。
いい臭いがするの、それに肌が滑々で。
大好きだった。
気付いたら、好きになってた。
うん。
女の私が、女の彼女を好きになってた。
うん。
ふざけあって、キスをしたりした。
抱き合ったり。
興味本位で、二人して、エッチなビデオを見たりしたんだよ。
あれは気持ち悪かったな。
うん。
大好きだった。
いろいろ、理由を考えたよ。
理由は何時だって後から思いつくんだ。
うん。
本物の家族じゃない。
血は繋がっていない。
私にはそれが心の支えだった。
だって。
何時だって人は、血を繋がった者同士の恋愛に。
後ろ指を差すでしょ!
私たちは大丈夫!
私たちは本当の家族じゃないから恋愛が出来る。
愛し合えるんだ!
うん。
うん。
でも、私が愛してるって言ったら、気味悪がれるかも知れない。
家族じゃないって言ったら、本当に。
嫌われるかもしれない。
怖くて。
それでも好きで、たまらなくて。
うん。
彼女、いつも笑ってて。
可愛くて愛らしくていい臭いがして肌が滑々で。
抱きしめあう時は、私が彼女の胸にうずくまってた。
うん。
うん。
うん。
彼女ね。
留学しちゃったんだ。
オーストラリアに。
私、嫌われたのかな。
でね。
ダイレクトメールが届いてね。
写真が入ってて。
そこにね。
「恋人が出来ましたって」
男の人と、一緒に。
私。
よかったねって。
嘘ついたの。
心のどこかで。
私。
うん。
いい臭いがしたんだ。
赤ちゃん。
それでね。
肌もスベスベでね。
うん。
それでね・・・それでね・・・いい臭いがしてね・・・それでね・・・
あっ。
うん。
いい臭いがする。