前編
続きは来週ですが、怖いのだけで十分という方は来週のは読まないでください。
僕が小さい頃、僕の家の真向かいにある公園のトイレのくだらない噂があった。
ここにあるトイレに人が入って出てこなかったというありきたりな噂だ。
確かにみすぼらしく汚い公衆便所で幼い僕には怖いという感じはしたが、話し半分。
昼間は普通に人が入っていたし、夜は電灯もついていた。
消えた人間の名前も知らない。
僕はこの公園に思い入れがある。
昔、名前も知らない女の子とずっと遊んでいた。
彼女は確かこの公園の近くに住んでいた。
家にいったこともある。
黒い髪が綺麗だった。
笑顔が可愛いかった。
そこまで容姿を明確に覚えていて何故、名前を思い出せないのだろう。
「こうちゃんは鳥になったら何処に行きたい?」
毎日聞かれていた。
親から彼女が引っ越したらしいと聞いた時は涙を流した記憶がある。
幼いながら彼女に恋愛感情を抱いていたのかもしれない。
そして年月が経ち高校生になった僕に、もうそんな噂や彼女のことは記憶から薄れていった。
その公園には新しい公衆便所が建てられた。
しかし、何故か古いそのトイレは壊されることはなかった。
なんでだろう。
いや、別に気にすることはないのかな。
「こう、行ってきて」
「は?どこに何しに?」
不意に母に言われた。
母はよく、主語を飛ばす。
故によくわからないことがある
「スーパーによ。」
「はいはい」
そうして僕は買い物をしに行った。
その日の夜、僕が外を眺めていた時だ。
何故か、一人の女性が新しいトイレではなく、古いトイレに入った。
その時に、その噂を思い出し興味が湧き、見ていた。
すぐに出てくると思っていたが一時間経っても出てこなかった。
倒れたんじゃないかな?
ちょっと心配になり見に行くことにした。
しかし、僕が着いた時には誰もいる気配はなかった。
女子トイレに入るのは抵抗があったけど、確認してみた。
やっぱりだれもいなかった。
電気が消える
なんて異常事態もなかった。
家に帰ると女性が客室にいた。
リビングに行くと
「あっ、こう。何処にいたのよ!」
お盆を持った母がちょっと怒り気味に言われた。
「ちょっと公園に、、、」
「そう、昔遊んでいた子から来てるわよ」
僕はその言葉を聞いてすぐ客室に向かった。
「ひ、久しぶり。」
「久しぶりね」
「なんでここに?」
「またここに引っ越してきたの。でね、君に会いたくて。」
「僕も会いたかった。」
「口がうまいのね。」
美人になっていた。
とてもとても
変わってないのは黒い髪、、、
「さっきそこの公衆便所に入らなかった!?」
一時間くらい前に見た女性に容姿が似ている。
「えっ!?」
「間違いだったらゴメン」
「入ったよ、、、」
「やっぱり?」
「うん」
「つーかかなりの時間入ってなかった?」
「ちょっと探し物をね。」
「探し物?」
「明日、あのトイレに行ってみて。」
「うん。」
それから昔話に華を咲かせた。
彼女の父は市役所のお偉いさんだった。
公園の遊具がいくつか変わっていること。
遊んでいたこと
でも、僕は彼女の名前を思い出せない
名前を聞くのは失礼だと思って聞けなかった。
その夜遅く
何故か僕は公園の古いトイレに居た。
電気がついてない。
怖い。
それでも声がでない。
身体が勝手に女子トイレの個室へ向かう。
「こうくん?」
彼女の声だ。
しかし、僕の記憶の中の。
幼い時の彼女の声。
「どこ?」
僕は個室の外に向かって言う。
しかし、後ろから
「ここ」
と聞こえ、腕を掴まれた。
ミシミシと音をたてる。
折れてしまう、、、
「こうくんは酷い。酷い。」
ギギギと掴まれている腕が鳴る
「ゴメン、ごめんなさい!」
「名前も、私のことも忘れていたんでしょ?酷い。」
「、、、」
「ららはこうくんのこと覚えていたよ。そしてここでした約束も覚えていたよ。1日も忘れたことなんてなかった!」
そうだ!ららだ。ららちゃんだ!
意を決して後ろを見ると、長い黒髪で顔が見えない女の子がいた。
「思い出した?約束」
「約束、、、?」
約束ってなんだ?
このトイレで約束、、、?
なんだ、、、なんて約束したんだ、、、
「思い出せないんだね?」
「まって、、、」
何時の話だっけ、、、
「思い出せないんだね」
「ゴメン、、、」
「二人でここに入って約束したんだよ。私をこうくんのお嫁さんにしてくれるって、、、」
ららちゃんが指を指す。
そこには油性ペンで書かれたハートの中に僕の名前とららちゃんの名前。
「これがまた会う日まで消えなければ私をお嫁さんにしてくれるって!」
そうだ。
そんな約束した気がする。
「思い出したよ!また会えたんだね!」
そうか。そうだったんだ。
「うん。だから私をお嫁さんにして!」
その言葉を聞いた途端目の前が暗くなった。
そして気が付くと朝で僕は自分のベッドに寝ていた。
「こう!来なさい!」
母に呼ばれた!
急いで下へ行った。
「何?」
「ららちゃんが死んだって、、、」
「は!?」
「昨日、家からの帰り道、トラックに跳ねられたんだって」
はぁ。
一瞬びっくりした。
が、、、
これは夢だ。
昨日は僕が送り届けたのだから
バッと僕は目を覚ました。
何時もより早い時間だ。
僕はすぐにあのトイレに向かった。
そこには確かに埋め込まれたタイルにハートで僕の名前とららちゃんの名前がかかれていた。
後で会いに行こう。
告白しよう。
そう思っていた。
家に帰り、もう一度寝た。
あの噂はららちゃんが流したんだ。
ここに誰も入らせないように。
そして、トイレが壊されなかったのもららちゃんがお父さんに頼んだのだろう。
ずっと僕との約束を覚えて、僕を想ってくれていたんだ。
なのに僕は忘れていた。最低だ。
僕は、忘れていた分、彼女を幸せにしよう。
そう決めた。
「こう!起きなさい!」
母が呼ぶのでリビングへ向かう。
「あんたっ。なんで昨日は夜ふらふらと!」
「え?昨日、家に来ていたららちゃんを送ってたんだよ」
「え?」
「は?」
「まぁいいわ。昨日、昔良く遊んでいた子から電話が来ていたのよ。」
「は?」
「えっとね~昔の時の写真を探したのよね~」
母から見せられた写真。
確かに僕だった。
隣には、ももという名札を胸につけた女の子。
「誰これ?」
「昔遊んでいた子じゃないのよ。ほら、掛け直せるために電話番号聞いといたから。」
「わ、わかった。」
何故、、、
どうなってるんだ?
わけがわからない。
一応電話を掛けた。
「はい、、、」
可愛い声だ。
「こうですけど、、、」
「こうくん?久しぶり!」
「ひ、久しぶり、、、昨日は電話を掛けてきてくれたらしいね」
「うん。で、私ね今日の夕方そっちにまた引っ越すの。で、今日の夜大事な話があるから家にきて欲しいの。」
は?どういうことだ?
「わかったよ。」
電話を切り、昨日、ららちゃんを送った家に走って向かった。
ついて僕は驚く
どういうことだ。
誰も住んでない。
確かに昨日、、、
待て、
待てよ、、、
なんで僕の家から公園のトイレに向かった僕と、
公園のトイレから僕の家に向かったららちゃんは途中で会わなかったんだ?
腕をパッと見る
小さく、細い指の跡がある。
「ららって誰だよ、、、」