前回と同じようには出来ない
逆行物。
後半に残酷な描写あり。クッション入れてます。
私は死んだ。
間違いなく死んだはずだった。
『悪役令嬢』なんて陳腐で意味の分からない言葉を投げつけられ、子供のいたずらよりも軽い罪で首を切られて死んだ。
でもまあ、死ぬならそれが運命。
命乞いもなく私は死んだはずなのに、何故か時間が遡っていた。
その場で直ぐに死んでしまいたかった。
何故、過去の己になっているのか意味がわからず、しかしかつての人生をなぞることも、逆らうことも面倒で流れに身を任せて生きることにした。
かつての私はその時に感じた心のままに生きた。
でも今の私はその経験を済ませた上で今この瞬間の感情を持つ私となっている。
同じことなんて出来るわけがない。
高い壁の向こうには世界があることを前の私は知らなかった。けれど今の私は知っている。
外に出たいと願ったのは今の私が思ったからで、かつての私はそんなことを思わなかったから、ほら、もうこれで違う。
外に興味を示した私を、母と兄が連れ出した。
兄の腕の中で見渡す世界はかつての私が見ていた世界とはやはり違う。
あんな店はなかった。
こんな店があったのか。
気の赴くままにあそこに行きたいと指さしたカフェ。
貴族でも入れる上等なその店は出来たばかりの美しく白い壁をしていた。かつてのわたしが一度だけ訪れたときの壁はクリーム色だったのに。
母と兄が笑っている。
かつての私は何もしていないのに変な呼び名を与えられ、家族は私のせいで追い詰められて笑顔がなくなっていた。
全ての原因はなんだったのだろうか。
十二歳の時に王子と婚約したことだろうか。
今思えば、王族なら王子本人が頑張らないといけないのに、何故その妃に負担ばかりを掛けたのだろうか。
王妃だってまともに政務をせずに押し付けてきたくせに。
能力が劣るのに王妃が出来ていたのは国王が優秀だったからなのだろうか。いや、あの国王は凡愚だった。それでも何とかなるのであれば、かつての私があそこまで頑張る必要はなかったのに。
自分でやれよ。税金で腹を満たす王族に特権があるのなら、やれよ。
今ならきっとそう言える。
無駄金食いのくせに人を責めることだけは一人前。書類の処理もまともに出来ないくせに恋愛ばかりに力を注ぐなら王族なんてやめてしまえ。
誰も彼もが馬鹿ばかり。
平民が男爵家の養子になって、いずれは王妃。それに頭を下げることが出来るの?
子爵家ですら馬鹿にする人達が平民の血の流れる女に頭を下げる。
滑稽で仕方がない。
こんな下らない国だったのか。
だけど何かをしたい訳では無い。そんな気力はもうない。
流れのままに。
そうしていたら、王子との婚約の前に別の令息との婚約が決まった。
あの日母と兄と行ったカフェにお忍びで来ていた令息に見初められた。
家の釣り合いは問題なく、政略の意味もある婚約はつつがなく結ばれた。
つまり、消去法で選ばれた王子の婚約者選びのお茶会に参加しなくても良くなったということ。
これもまた運命なのだろう。
かつての人生でこんな人いたかな、と思ったけれど、周りに興味を抱く暇もなかったのでもしかしたらいたのかもしれない。
公爵家の彼と侯爵家の私。家柄のバランスは本当に良くて、一目惚れされたから好かれているのは間違いなく、穏やかな日々を過ごしている。
彼が他国の教育に興味があるからと留学に誘われ、かつての私は国の外に出たくても暇がなかったから行ってみたいと思って頷いた。
様々な立場で、様々な考えを持ち、人と触れ合い世界が広がった。
かつては多忙な中で通った学園に足を踏み入れることなく過ぎた時間。
年に一度の王宮で開かれる舞踏会に参加しなさいと家から連絡が来て、婚約者と興味があると着いてきた友人たちと共に帰国した。
留学先の国で彼が作ってくれた流行の最先端のドレスを着て踏み入れた王城の大広間。
昨年は帰国が面倒で参加しなかったし、周りの同じ年頃の令息令嬢が誰かも分からない。
同行者として共に入場した友人達は目新しいものはないのに辺りを見渡していた。
そういえばかつての私が処刑されるきっかけはこの舞踏会だった気がする。
そう思ったところで何故か名前を呼ばれた。
かつての時と同じように。
何の用だろうと呼ばれるままに向かえば、周りの視線が集まる。
そして始まる断罪。
罪状は学園で王子の恋人をいじめたもの。
「わたくし、この国の学園に入学していませんわ。帝国の学園に留学していますの。婚約者と共に」
「はい。僕も一緒に留学し、今回は家から帰国しろと命令されたので三年ぶりに戻ってきました」
「俺が皇族の名にかけて証言しよう。俺は帝国の第三皇子だ。この二人は五年前から我が国に留学している」
「ケロン王国の第五王子だよ。ボクも王族の名にかけて証言するよ。二人とはずっと同じ留学生クラスだからね」
私と婚約者の後ろから現れた二人の他国の皇族と王族にざわめきが広がる。
それにしても不思議よね。
私は何もしていないのに。
「誰がわたくしの名前を出したのかは分かりませんが、この五年、この国の家族と婚約者の家族以外とは接しておりませんの。困りますわ。わたくしの名誉に関わりますもの。厳重な調査をお願いしますわね?」
まあ、犯人は分かったわね。
挙動不審な男爵家の娘。
そんな、なんで、なんて口から出ているわ。
「第一王子殿下も、何の証拠もなくわたくしを侮辱したことはこの場の皆様、そして他国よりお越しのお二人の殿下もご覧になられましたわ。ええ。我が家から抗議いたします」
「婚約者を理不尽に罵られましたので、公爵家からも抗議します」
彼の家は筆頭公爵家だったわね。そして我が家もそれなりに力がある。
その二家から抗議を入れられた王子の進退はどうなるかしらね。
まあ、全ては流れのままに。
私は何もしていない。彼に誘われるまま留学しただけで私がそうしたいと言い出したわけではない。
けれど、それのお陰で完璧な冤罪が証明されたわ。
「それにしても、皆様すごいわね。差別ではないのだけれど……話によると、彼女、平民で見目の良さで男爵家に引き取られたとか。平民に頭を下げるのね。わたくしには無理だわ。いない間に身分制度は崩壊したのかしら?ふふ。帝国に永住しようかしら」
彼らの恋を『真実の愛』と賞賛した皆様。
よくお考えになってね。
平民に頭を下げる、それを許せるのか。
「義理は果たしたし、帰りましょうか。殿下方はどうされます?」
「そりゃあ同行者だから一緒に帰るよ。それにしても、つまらない国だね。平民生まれの男爵家の娘が上位の人間を虚仮にして生きてるんだから。帝国ならむち打ちの後に公開処刑だよ」
「帝国って優しいね。ボクの所だと石打ちだよ。檻に入れて逃げられないまま滅多打ち。中々死ねないんだよね」
「あの、僕の婚約者の耳に乱暴な処刑方法を入れないでください」
「気にしないわ。まあ、二人を祝福してるということは身分制度への批判の宣言だもの。国王陛下がお許しになるといいわね?」
かつての私が処刑された時、国王と王妃は国にいなかった。
前々からこの舞踏会の日取りは決まっていたけれど、国に関わる重大な事情で二人は揃って国外に行かなければならなくなったのよ。
毎年行われる王宮舞踏会は担当の文官もいるので王子が挨拶をすれば良いだけ。それを利用して断罪し、裁判もなく処刑。
大問題よね。
侯爵家の娘を証拠もない罪で裁判もなく処刑したのだから。
国が崩壊してもおかしくないと思うの。
だから巻き戻ってきたのかしらね。まあ、どうでもいいわ。
今の私は処刑されることはない。もしこれで処刑だと言うのならば、帝国とケロン王国が口を出すわね。
これから先のことは分からないしどうでも良い。
私は変わらず流れに身を任せるだけ。
ただね、王子とあの娘は、死んでくれないかしら。
冤罪で処刑されたのだから、私を侮辱した罪人も処刑されてしかるべきでしょ?
なーんてね。
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前回の処刑後の話
※残酷描写あり
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王子が婚約者を冤罪で処刑したことは、貴族社会を揺るがした。
国王と王妃のいない間の素早い公開処刑に反対するものは抑え込まれ、ギロチンの刃で命が一つ。
恋に溺れた王子は理解していなかった。
軍事力を持つ侯爵家の娘を正当な理由なく処刑した、その後を。
まず、王子が愛した少女は細かく切り刻まれ、顔は判別出来る程度に傷つけられてゴミで彩られた。
所詮は男爵家の娘。守りは脆弱で、笑えるほどに簡単に死んでしまった。
次に王子の側近候補の子供たち。
親が彼らの命を奪った。そうしなければならなかった。
王子を諌め正しい道に戻さなければならなかったのに。
並ぶ棺の中には毒で、首の骨を折って、刃物で頸動脈を切られて、縄で締め上げて、そうして死んだ遺体が納められていた。
同じ学園に在籍し、侯爵家の令嬢を笑い者にした者たちは。
真実を見もしない目は要らない。
真実を聞こうとしない耳は要らない。
偽りしか語らぬ口はいらない。
手は、足は、指はいらない。
さて、どれかひとつ選びなさい。
それは正しく仇討ちであった。
娘を利用するだけ利用しつくし、その果てに冤罪で殺した。
罪なき娘へ捧げる罪人だけを狩り尽くす仇討ち。
震える王子を前に国王と王妃は問う。
「罪なき者をギロチンの刑に処したのならば、殺人を犯したお前はどうするか」
「裁判なき処刑は殺人の罪だ」
「そも、処刑判決は国王の権限。いつから王になった」
楽に死ねるはずもない。
数多の骨に囲まれて王子は迫り来る終わりに怯える。
自ら死ぬ勇気もないのに、簡単に殺した。
だから彼は簡単に殺されなければならない。
王妃は己の仕事を婚約者だからと押し付けた。
だから王妃は処刑された。
王は王子を真っ当に育てられなかった。
だから国王は処刑された。
罪人は処刑され、最後の罪人の王子は炎に焼かれて死んだ。
そして仇討ちは終わり。




