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剣聖の幼なじみが俺にだけ弱い  作者: 秋原タク


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第28話 プライベートな話

 王都はフィーゲル王国の国力を象徴しており、その面積も広大だ。

 となれば一日で王都全土を見て回れるはずもなく、観光は夕方までで一区切りとすることにした。


「また次の機会があるさ。そのときも、私が案内してやるからな」

「ああ、頼む」


 その次が来るのはいつになるのか、俺は問いただすことができなかった。ローザもまた、それ以上の言及を避けているように見えた。

 きっと、どれだけの期間会えなくなるのか、知りたくなかったし、受け入れたくもなかったのだ。ローザも、俺も。


 一緒に並んで帰路に着く。

 繋いだ手はもう揺れていないけれど、その分、観光をはじめたときよりも固く、体温を混ぜるように強く繋がっていた。

 夕暮れに染まる騎士団寮舎が見えてくる。

 と同時に、正門前に数名の甲冑を着た兵士の姿も見えてきた。


「近衛師団?」


 ローザが訝しげにつぶやき、手を離すと、こちらに気づいた近衛師団が甲冑の金属音を鳴らしながら歩み寄ってきた。

 ローザはなぜか俺を背に回し、騎士団長然とした顔つきで、目の前の近衛師団を睨む。


「騎士団寮に何用だ? また国王の命とやらか?」


 警戒心むき出しのローザの問いに、近衛師団のひとりが事務的に答える。


「今度は命ではなく、お願いです。国王陛下が、騎士団長殿とお話をしたいそうで」

「話? 襲名式に関することか?」

「いいえ。至極プライベートなお話だそうです――ご同行願えますでしょうか? 陛下は、従わない場合はそれでもかまわない、と仰っておりましたので、最後は騎士団長殿の判断にお任せしますが」

「…………わかった、行こう」

「ご協力、感謝します」

「と、いうわけだ。すまない、レイン」


 近衛師団から視線を切り、ローザは申し訳なさそうに俺を振り返った。


「国王の要求を呑む必要はないんだが、かと言って、突っぱねてばかりでも不和を生む。時には素直に従うことも必要なんだ……残念だが、このあと予定していたベッド上での夜の大乱闘は、またの機会ということにしてくれ」

「残念がらなくて大丈夫だぞ、そんな予定は最初から存在してねえから」


 本当、コイツの脳はどうなってんだ。


「大乱闘……」「お盛んだ……」「さすが団長殿……」「ベッド上でも傑物なのか……」


 近衛師団の面々がひそひそ話をしているの聞きながら、俺はローザの肩を軽く叩く。


「んじゃまあ、行ってらっしゃい。騎士団長さん」

「ああ、行ってきます」


 不敵な笑みとともにそう残して、ローザは近衛師団に連れられていった。


(忙しいんだな、騎士団長って……)


 昨日今日とローザは時間を作ってくれたようだったが、実はとんでもなく無理をさせてしまっていたのではないだろうか、と遅まきながらに思い至った。

 これからは、そこに看板勇者の仕事が上乗せされることになる。

 ローザと会えなくなる期間は、二ヶ月どころではなく、年単位にもおよぶかもしれない。


(……このままでいいのか?)


 漠然と、そんなことを考えはじめたときだった。


「あれ? レインくんじゃーん」


 騎士団寮舎の方から、カナリエの声が聴こえてきた。

 カナリエは暢気にアイスを食べながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


「たそがれちゃって、どうしたの? ローザとのデートはもう終わり?」

「で、デート?」

「え、デートでしょ? 広場で合流したあとから護衛は切ってたから、どこまで進んだのかは知らないけど――わたしはてっきり、ベッド上で夜の大乱闘を繰り広げるまで帰ってこないものだとばかり思ってたのに」

「……入れ知恵したのはカナリエさんか」

「? 入れ知恵?」


 ローザにしては踏み込みすぎたボケだと思っていたんだ。


「てか、すっごいいまさらなんだけどさ」


 残りのアイスを食いきって、カナリエは言う。


「わたしのこと呼び捨てでいいわよ? 二歳しかちがわないんだし。敬語も堅苦しいからタメ口でヨロ」

「え、でも……」

「ヨロ」

「…………カナリエ」

「んふふ、なーんだい? レインくん」

「いや、そっちは俺のことくん付けなんですか? ……なのか?」

「そこはアレよ、お姉さん属性ってやつよ」

「なんだそれ」

「うふふふ」


 楽しそうに頬を緩ませるカナリエ。

 その笑顔は、年上と思えないほどにあどけない。


 ふと。くぐもった振動音が聴こえた。カナリエの魔導フォンだ。

 ポケットから取りだし、画面を確認したあと、カナリエは何事もなかったかのように魔導フォンを仕舞った。


「いいのか? 返信しなくて」

「うん、平気平気――んで、そんなレインくんのお相手のローザはいずこへ?」

「ああ。ついさっき近衛師団のひとたちと一緒に国王さまのところへ行ったよ。なんでも、国王さまがプライベートな話をしたいって言ってる、だとかで」


 言った瞬間、バキッ、という音が響いた。

 カナリエが、手にしていたアイスの棒を握り折ったのだ。


「か、カナリエ?」

「……それは、国王の命令で?」

「いや、お願いだとか言ってたな。従わなくてもかまわない、最後は団長判断に任せる、って……それでローザは、突っぱねてばっかでも不和を生むからって」

「素直に従った、と」


 深いため息を吐き、折れたアイスの棒の残骸を捨てると、カナリエは茜空を仰いだ。


「あの子の愛国心が仇に……。これはもう………………いや、もしかしたら、まだ」


 ぶつぶつとつぶやきながら、カナリエはこちらに視線を向けた。


「レインくん」


 俺ではない、俺の背後にあるナニカを見据えているような瞳だった。


「このあと、ちょっと飲みに行かない?」

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