残光
いつも通り喫茶店である「étoilé」の決まった席で、ドアーズを啜りながら外の景色を眺める。
この席からだと一際光を放つ美しい星が見えるため空いていれば必ず座る。
ふと今日はいつも眺めている星をもっと近くで見てみたい気持ちに駆られ、本来はもっとゆっくりするはずだったがすぐに会計を済ませ宇宙車に乗り込む。
ワープドライブ機能を使用すると一瞬で辿り着いたものの星がある座標には何も無かったのだ。
狐につままれたのかと思いながら帰宅したが、どうやらあまりに遠い所にある物が発する光は何千年もかけて視認する事が出来るらしい。
つまり私がいつも星を見ていると思っていただけで実際はその名残を認識しているだけだった。
当たり前にあると思っているものが無くなるのは耐え難いものだ。
初めて喫茶店に訪れたのも、喫茶店で読書を嗜む彼女の付き添いだった。
コーヒーを飲みながら小難しそうな本を読んでいる彼女に反して、私はコーヒーがあまり好きでは無いためメニューの終わりのほうにある紅茶の上から順番に頼み外を眺めるばかりだった。
今思えば一緒に何かおすすめの本を聞いたり、彼女の栞を弄る仕草などに注目してみたりすれば良かったと後悔する。
結局そんな私だから彼女からしばらくして別れを切り出された、食い下がるのもみっともないと思いそのまま別れたものの結局未練しか無く、その後も漠然とétoiléに通うようになったのだ。
あれから彼女はétoiléに来なくなったのか一度も会えていない。
次第にétoiléに通うという行動のみが体に染みついてしまい今に至るわけだが、結局私は星を眺めに来ていたわけでなく彼女の名残をそこに感じていたのだろう。
性懲りも無く今日もétoiléへ向かい、いつもの席が空いているか顔を向けると彼女がいたのだ。
今更何もかも遅いのかも知れないが、あの星のように消えていないことに安堵した。
何となく気まずかったので、退店しようとすると
「久しぶりだね、せっかくだから座ったら?」 彼女の声がした。




