表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤島の檻で魔術師に拾われました。記憶喪失の僕に注がれる愛が重すぎる件〜記憶喪失のオメガと、呪われた最強魔術師の甘やかな監禁生活〜  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/12

第7話「封じられた記憶」

 あの日以来、私とリエンの距離は急速に縮まった。


 彼が夜な夜な島の結界を維持し、その代償として生命力を削っていることを知ってしまったからだ。


 私は彼を支えたいと願うようになった。それが「つがい」としての本能なのか、あるいは吊り橋効果による錯覚なのかは分からない。ただ、傷つきながらも私を守ろうとする彼の姿に、胸が締め付けられるような愛おしさを覚えたのは事実だった。


 リエンもまた、私に弱みを見せたことで、どこか張り詰めていた糸が緩んだようだった。


 彼は昼間でも書斎に籠もることが減り、庭園で私とお茶を飲む時間を持つようになった。


 風に揺れる木漏れ日の下、リエンが私の髪を梳く。その指先は優しく、まるで壊れ物を扱うようだ。


「アキラ、髪が伸びたね」


「切ってください、リエンさん」


「いや、このままでいい。私の色に染まっていくようで、そそる」


 彼は私の髪に口づけを落とす。その瞳には、暗い所有欲と、蕩けるような甘さが同居していた。


 私は少し顔を赤らめながら、カップに口をつけた。


 平和な午後だった。このまま時間が止まってしまえばいいのに、と思うほどに。


 だが、その平穏は長くは続かなかった。


 ある日の午後、セバスが珍しく慌てた様子でテラスに現れた。


「旦那様、申し上げます」


 リエンは不機嫌そうに眉をひそめた。私との時間を邪魔されるのが何よりも嫌いなのだ。


「なんだ、騒がしい」


「浜辺に……漂着物が」


 その言葉に、リエンの表情が一変した。


 鋭い眼光がセバスを射抜く。


「漂着物だと? 結界はどうなっている」


「綻びが生じている恐れがあります。通常なら弾かれるはずですが……」


 リエンは無言で立ち上がった。その纏う空気は瞬時にして絶対的なアルファのものへと変わり、周囲の温度が下がったように感じる。


「アキラ、部屋に戻っていなさい。決して出てはいけない」


 彼は私に命じると、風のように去っていった。


 取り残された私は、不安に胸をざわつかせた。漂着物。この絶海の孤島に、外の世界から何かが流れ着いたというのか。


 部屋に戻るフリをして、私はこっそりと後を追った。


 浜辺へ続く小道を進む。心臓が早鐘を打っている。


 岩場の陰からそっと覗くと、リエンとセバスが波打ち際に立っていた。


 その足元には、黒い塊のようなものが転がっている。


 近づいて目を凝らすと、それは木箱だった。古びていて、フジツボがびっしりと付着している。


 リエンが杖でその箱を突くと、蓋が弾け飛んだ。


 中から出てきたのは――人間ではなかった。


 ボロボロになった衣服、錆びた剣、そして航海日誌のような革表紙の本。


 リエンは日誌を拾い上げ、パラパラとめくった。


「……またか。『聖女』を探す愚か者どもの成れの果てだ」


 聖女?


 その単語が耳に飛び込んできた瞬間、頭の中に激しい痛みが走った。


 ――聖女様、どうか我々をお救いください。


 ――その力は世界を滅ぼす。封印しなければ。


 知らないはずの記憶が、フラッシュバックのように脳裏を駆け巡る。


 燃え盛る村、逃げ惑う人々、そして私に向けられる憎悪と崇拝の入り混じった視線。


「う、あぁ……!」


 痛みに耐えきれず、私は呻き声を漏らしてしまった。


 リエンが弾かれたように振り返る。


「アキラ!?」


 彼の顔が驚愕に染まる。


 私は頭を抱えてその場にうずくまった。


 記憶の奔流が止まらない。私は誰だ? アキラ? それとも――?


 リエンが駆け寄ってきて、私を強く抱きしめた。


「見るな! 思い出すな! 君はただのアキラだ、私の愛しいオメガだ!」


 彼は必死に叫びながら、私の視界を塞ぐように顔を胸に押し付けた。


 その体は小刻みに震えている。


 彼のフェロモンが濃厚に漂い、暴走しそうな私の意識を強引に引き戻そうとする。


「忘れろ。すべて忘れろ。君の世界には私しかいない」


 それは暗示であり、命令であり、そして懇願だった。


 私はリエンの腕の中で、薄れゆく意識と共に、一つの確信を得ていた。


 私は、ただの遭難者ではない。


 この島に流れ着いたのも、リエンが私を隠しているのも、すべては私の「正体」に関係しているのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ