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もしも私が神であったなら

作者: カトレア
掲載日:2025/11/11




もしも私が神であったなら、

このような世界を創りはしなかっただろう。


心を病んだ——それは今やどこにでも転がる言葉だ。

けれど個人にとってそれは、ある日突然、足元の地面が崩れ落ち、自分が氷の上に立っていたのだと知る瞬間だ。

何も信じられず、世界のすべてが自分を拒絶する。

そのとき、人生は音もなく否定され、未来は静かに閉ざされる。


異動先の上司は、私にだけ冷たかった。

声をかけても、返ってくるのは嘲笑のような言葉だけ。

顔を向けることさえなく、無視よりも残酷な、軽蔑の色を帯びた視線があった。

「そういう人だ」と、他人は言った。

「あなたの前任にも同じ態度だった」と。

つまり私個人に非があるわけではない。

——そう、頭では理解していた。


けれど、その上司は他の者には笑いかけた。

些細な雑談に目を細め、相談に快く応じ、時には冗談を交わして笑い合う。

その表情を見たとき、私は世界の中で自分だけが排除されたような錯覚に囚われた。

そんな日々が続くにつれ、私の心は乾いていく。


理解と納得は別物だ。

私は、私という存在そのものが拒まれているように感じた。

否定の矢は、誰の手から放たれたものであろうと、

自分の胸に突き立てば、それはもう他人事ではない。


私は優秀な人間を演じてきた。

愚かで、脆く、怯える自分を見せるまいと、仮面の裏で息を殺して生きてきた。

だが、仮面は次第に皮膚と癒着し、ついには剥がすことも、表情を変えることもできなくなった。

そうして、静かに終わりが訪れた。


壊れた心は、救いを求めて手を伸ばした。

確かに、誰かの温もりを掴んだ気がした。

けれどその手は、途中で私の手をあっさりと突き放した。

傷つけられたことに憤り、矢を打ち返した私に、呆れたのだろう。

あのぬくもりは、唐突に消えた。


周囲は心配してくれた。

けれどそれは、表層を撫でるような優しさでしかなかった。

家族は言った。

「甘えているだけだ」と。

彼らの言葉は正論であり、同時に刃だった。


街を歩く。

人々の顔には、微笑と疲労が重なり合い、誰もが仮面の下で泣いているように見えた。

彼らは互いを傷つけ、また傷つけられ、それでもなお、生きるふりを続けている。

私もその一人なのだろう。


私は恐ろしい。

他人を憎みながら、その憎しみを糧に生き延びようとする自分が。

壊れたままでも呼吸している、この生々しい心が。


もしも神がいるのなら、なぜ黙しているのか。

なぜ人に、このような脆い心を与えたのか。

矢を射る者と、救いの手を差し出す者を、なぜ同じ地平に立たせたのか。

そしてその両面を、何故人は合わせ持つのか。

この不均衡を、神はどこから眺めているのか。


私は思う。

神がいるなら、恐ろしい。

だが、神がいないのなら、もっと恐ろしい。


神がいないのなら、

この世界の冷たさも、残酷さも、

すべて人の手によるものになるのだから。


そして私は——

その「人」という括りの中に、確かに存在している。


その事実が、たまらなく恐ろしい。





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