第6話 空からの来訪者
……ここは……どこなの?
霧のかかった薄暗い空間。
そこにポツンと1人で横たわってる私。
アリスは横になったまま考える。崖から落ちて、今また知らない空間に自分がいる。さっきまで木や草しか見られなかった空間から、ここに移動しているというのを踏まえて考えると、ここは現実の世界では無いとアリスは悟ってしまった。
もしかして私……死んじゃったのかしら?
崖から落ちて、それから確か……。
自分は既に死後の世界に来ていると考えたアリスは、何故か落ち着いて自分の状況を整理し始めた。
しかし、自分の状況を思い返そうとすると、遠くから何か聞こえて来るのだった。耳をすまし、その音が何かを確認する。
「……アリス……アリス……」
「……誰か呼んでる?」
アリスは自分1人しかいないと思っていた空間で自分の名前を呼ぶ声がすると気づく。
死後の世界で名前を呼ばれる。アリスは自分の死んだ父親と母親の顔を思い浮かべた。
あぁ、お父さんかお母さんが迎えに来てくれたのね。ごめん、2人とも。
私、2人が死んだ後、危ないからって反対されてた魔王軍に入って、すごく頑張ったけど……でも2人が言った通りになっちゃったわね。
死んじゃったわ、私。
アリスは両親に昔言われた「弱いんだから魔王軍なんかに入るのは辞めなさい! 死ぬだけよ!」と言われたことを思い出し、自分を呼んでいるであろう2人に対して、心の中で謝った。
「アリス……おい、アリス」
横たわる私の目の前に声の主は姿を現す。
黒いサラサラ髪に2本の角が広がって生えている。瞳は赤く、凛とした顔立ちのお方……。
「って、魔王様じゃないですか!?」
アリスは驚き、体を起こす。
なんとアリスの目の前に現れたのは魔王グレイ・マーベル・シュバルツだったのである。
「アリス……アリス……」
「はい、魔王様! アリスです!!」
魔王様に名前を呼ばれ、私は正座して敬礼して見せる。
……でも魔王様が何でここに?
もしかして魔王様もあの黒い渦に巻き込まれて、あぁ、なんてこと!
グレイも死後の世界に来てしまったと思うアリスは、1人嘆き、悲しんだ。
しかし、ワンワン泣くアリスを目の前にしても、グレイは顔色ひとつ変えず、ただ突っ立ったままアリスの名前を呼び続ける。
「アリス……アリス……」
「聞こえてますよ、魔王様……魔王様?」
「……」
アリスの目の前にいるグレイは急に黙り込む。
流石のアリスでもグレイの様子がおかしいと気づき、顔をじっと見つめる。
ずっと黙っていたグレイだったが、息を大きく吸いながら右手を上げる。そして人差し指を突き出し、口を開く。
「天……」
瞬間で気づく。これはいけない!
「罰は辞めろー!」
アリスは霧のかかった夢の世界から現実へ帰還し、呪文を唱えようとするカンタの腹に右ストレートをかます!
だがカンタの鍛えられた身体に対して、その右拳は脆く、アリスの手はまたもや赤く腫れ上がるのであった。
「やっと起きたか、アリ……何をする、喋れんではないか?」
「天罰しか言えない馬鹿な口なら閉じてた方がマシよ!」
自分が見ていたのは夢の世界だったと早めに気づけてよかったわ。
危うくまた電撃をくらうところだった。
もう『サンダー』って聞いた段階で身体が反応してたわよ。
「何で毎回起こす時に天罰使うのよ! 別の技とか魔法とか無いの?」
「いや、あるぞ」
「そもそも寝てる女に手を上げるな!!」
「……ショック療法?」
「はぁ!?」
カンタは天罰を使った理由は治療のダメだと言い出した。
でもアリスの耳には、そんなの言い訳にしか聞こえなかった。
「私、心臓止まってた?」
「いや、全然」
「そう、ならそれはショック療法じゃ無い。感電って言うの! 寝てて雷が落ちるなんて、ただの事故よ、事・故!!」
天罰の威力はサーベルボアの時に一度確認している。私に使った天罰はかなり加減をしてた。それでも1歩間違えば感電死しかねないと思い、私はカンタに天罰の使用を禁止すると決めた。
天罰は使いやすいんだがとカンタは言うが、そんなこと知ったこっちゃ無い。
カンタの使い勝手より、自分の身を守ることの方が大事。
「天罰以外は何が使えるのよ?」
「魔法か?」
「そうよ、他に何があるのよ?」
「……例えば、こんなのとか」
カンタがこんなのと言って私に見せてきたのは異様な光景であった。
「「これなんだが、どうだ?」」
カンタは私に聞いてくるが、私はどこを見ていいか分からなくなっていた。
目の前にカンタが2人いる!?
私がどっちを見て喋ればいいか戸惑っていると、カンタは一度元に戻ることにした。
「カンタ、分身が使えるの!?」
「……分身?」
私の発言にカンタは首を傾げる。
魅了の魔法『分身』
幻覚でもう1人の自分を作る魔法。
魔族にしか使えない魔法だって聞いてたのに、カンタがやって見せたことに驚いてしまった。
「カンタ……アナタ、もしかして魔族なの?」
私はカンタが人間だと勝手に思い込んでいたと思い、カンタに初めて種族を聞くことにした。
「いや、違うぞ。俺は……」
カンタが答えようとしたその時、空から近づいてくる影の存在に気づく。
「何だ……鳥か?」
カンタは空を見上げ、その近づいてくる影に目をやる。
「俺を見て鳥だと……はぁ、死んでろ」
「!?」
影は声を発すると共に、攻撃を始める。
カンタの胸を無数の白い羽根が貫通していく。
白い羽根が地面に突き刺さる音だけして、カンタは音も立たず、ただ消えていく。
「ねぇ、嘘でしょ……カンターーー!!」
攻撃を受け、霧のように消えていくカンタを目撃するアリスは、高々とカンタの名前を呼ぶのであった。
はじめましてゴシといいます。
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