第4話 コイツ、変!
今自分達がどこにいるかも分からない中、私とカンタはとりあえず今いる森の中を歩き回ることにした。
「私って、そんな魅力無い?」
下品と言われたことが気になって、私はもう一度カンタに自分の見た目について聞いてみる。
「俺はユノって子の方が清楚で好きって言っただけだぞ。下品な格好が好きな男だって世の中にはいるだろ、元気出せよ」
「下品って言うな! 慰めになって無い!」
またコイツは下品って! 生まれて初めて面と向かって言われたわよ、下品な女って……やばい、泣きそう。
再度聞いても私を下品な女と評価するカンタには、強くて勝てないと分かっていても、流石に怒りたくなった。
確かに私は人間で例えるなら水着姿で外を歩いてるようなもの。人間からしてみたら変態に思われるのかも。
でもサキュバスってこの格好が当たり前なの。この服じゃないと羽とか尻尾とか窮屈でキツイのよ。
「いいわよ、カンタに好かれなくても、ふんだ! でもやっぱり人間からしたら、私の格好って変に見えるのかしら?」
カンタに好かれて無くても、魔王様に変だと思われて無ければいいやと思い、投げやりにカンタに質問をする。
「人間からしたらってのは変な言い方だな。魔族とかなら好かれるのか、その格好?」
「うーん。確かめたことは無いわね」
確かにそう言われたら魔王軍の男達に「私とユノどっちが好き?」なんて聞いたこと無いわね。
……もしかして、魔王様もユノみたいな色白ぺったんこが好きだったりする? やばい、どうしよう、今すぐ聞いてみたくなったわ!
アリスは今すぐ魔王様の女性のタイプを聞いてみたいと思ったが、現状を考えるとそれが無理だと分かり、肩を落とす。
「はぁ〜、なんで私、こんな訳分かんないポッと出勇者と知らない森を彷徨ってるのかしら」
私はカンタを目の前にして、今の状況に対する愚痴をこぼす。
気づいたら私は本人を目の前にして訳分かんないヤツと言えるぐらいに、カンタと打ち解けていた。
でも不思議な感じなのよね、このカンタって勇者。人間なのに魔族の私と普通に会話してる。
ずっと話していても、カンタからは魔族に対しての嫌悪感みたいなものを1ミリも感じられない。
魔王を討伐とか言ってたコイツを私は排除しなきゃって思ってたのに、喋ってるとなんだかその気持ちも段々薄れてるのが自分でも分かった。
「訳分からなくは無いだろ。言ったぞ、俺は魔王を討伐しに来た勇者だって」
「それは聞いたわよ。でも何で討伐しなきゃいけないのよ? カンタがやらないといけないことなの?」
「悪い魔王を倒すのが俺のやる事……でもそうだな。言われてみれば、何で俺なんだろうな?
」
「いや、私に聞かないでよ」
私の質問に、カンタは質問で返してくる。
悪い魔王を討伐するのは勇者の役目というのが、カンタの中で当たり前なことだってのは分かった。
けど他でもないカンタが勇者をやってる理由については本人でも分からないと言うのだ。
「そういえば神から頼まれたって言ってたわよね? 何て言われてここに来たのよ?」
「魔王を倒せ」
「うんうん」
「……」
「……えっ、もしかしてそれだけ!?」
私の言葉にカンタはコクンと頷く。
神ってのから『魔王を倒せ』って言われただけで来たの? そんな一言で別の世界から来たってマジ? ……コイツ変、絶対変よ! 頭のネジ何本か飛んでんじゃないかしら!
私は茅ヶ崎カンタという男について、今分かってる情報を頭の中で整理しようと思った。
イケメンだけどちょっと吊り目な強面でぶっきらぼうな勇者カンタ。悪い魔王を討伐するため神によってこの世界に召喚される。でもカンタが選ばれた理由はよく分からない。
召喚された直後から今に至るまで、私達が攻撃をしてもカンタが反撃する素振りは全くなかった。これはカンタが自分に非があるって思っているから。いきなり他人の家に不法侵入したら、怒られるのは当たり前だと思っているようだ。そこは自分を客観的に見れる人間なんだなって思ったわ。
勇者としてのスペックは超一級品。攻撃力も防御力も、普通の人間では到達できないレベルに達している。
マヌケそうなカンタだけど私じゃ勝てないと思うし、戦闘に特化したユノでもカンタとやり合ったら勝てるかどうか。
でも魔王様ならこんなヤツが相手でもやっちゃってくれる……はずよね?
……今私はコイツの横を当たり前に歩いているけど、このまま無事にいれるのかしら?
それに魔王を倒すって言ってたのに、私達に対して何もして来ないのはどうしてなの?
怖いけど、ちょっと聞いてみようかな。
「ねぇ、カンタ。私達これからどうする?」
「どうするとは?」
「いや、その……当たり前のように私と一緒に歩いてるけど。いいのかなって?」
私は魔族、そして多分カンタは人間。
今は私にたいする敵対心みたいなものは感じられないけど、魔王軍の敵……なのよね、カンタって。
魔王軍の四天王と一緒に歩いてるってことに、カンタは何も感じ無いのかしら?
「俺と一緒は嫌か?」
「えっ、嫌じゃないけど……」
「なら一緒に居ろ。こんな森の中、女が1人で行動するなんて危険過ぎるからな。それに巻き込んだのは俺だ。お前を元の家に戻してやりたいしな」
カンタは真っ直ぐな視線をアリスに向ける。
あら、ヤダ。コイツいいヤツじゃない! 女を守れる紳士なとこあるのね。それによく見たらカッコいいし、悪くないわ! まぁ、魔王様に比べたらまだまだだけど。
……あれ? でもよく考えたらさっき私に電撃浴びせたわよね? 危なくて心配とか言うなら電撃は出さない。間違ったら心臓止まってるわよ!
カンタの言葉に心が揺れ動きそうになるが、電撃をくらったことを思い出し、私は文句を言ってやろうかと思った。
「カンタでもさっき」
「待て……何か聞こえるぞ!?」
しかし、私が文句を言おうとするのをカンタは止め、何かいると言って周りを警戒し始める。
そう言われると確かに、私達に向かって音がどんどん近づいてくる気がした。
アリスとカンタは音の鳴る方へ目を向ける。
だんだんと音が大きくなり、草を掻き分け、近づいてくる。そして、目の前に現れた。
「!? さ、サーベルボア!」
大きな2本角と口から剥き出しになった2本の鋭い牙が特徴的な、白に黒がまだら模様の牛。間違いない、魔獣『サーベルボア』だわ!
サーベルボアは肉食の獣。私達を見て明らかに興奮してる。
戦いは……避けられそうにないわね。
「カンタ! アイツはサーベルボア。応戦しなくちゃ!」
「何、魔獣!? 魔王の手下か!!」
「いいえ、違うわ」
「何だ、違うのか」
「違うわ。アイツは肉食なの。だから協力して……」
私はカンタに状況を伝え、目の前のサーベルボアを2人で協力して退治することにした……はずなんだけど。
フゥフゥ息を荒げながら目の前に現れたサーベルボアに対してスッと背中を向け、スタスタとまた森の中を歩き始めるカンタ。
まだ状況を理解してないと思い、アリスはカンタを走って追いかけ、肩を鷲掴む。
「何、状況分かって無いの!? 私達今アイツに狙われてるの! ほら、見てみなさいよ。こっち見てフゥフゥ言ってるじゃない、あの牛!」
私はサーベルボアを指差して、カンタにヤバイ状況だと熱弁する。しかしカンタは
「そりゃ、草だけじゃ無くて肉を食う牛だっているだろ。美味いしな、肉って」
爽やかな笑顔で「俺も肉は好きだ!」と告白して来やがった。
カンタっていい笑顔するのね……なんて言ってる場合じゃ無い。
聞いてないから、アンタが肉が好きとかって情報!
コイツ、どういう神経してるのよ。明らかにアイツは私達を見てエサだと思ってるわよ。だってほら、どんどん近づいて来て……って。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!! し、尻尾。尻尾噛まれたーー!!」
カンタを引き止めるのに夢中で、私はサーベルボアの接近を許してしまい、私の尻尾は今、サーベルボアにむしゃむしゃされていたのだ。
「よくも私の尻尾ちゃんを! くらいなさい、私が心を射止めちゃう!」
アリスは魅了の弓を具現化し、尻尾に噛み付くサーベルボアの額を撃ち抜く。
……何でダメなの、嘘でしょ!?
しかし、サーベルボアは何の反応も示さず、今だに尻尾をむしゃむしゃしていた。
アリスは自分が弱いからサーベルボアに魅了が効かないと一瞬思ったが、頭を働かせて、そして効かない明確な理由に辿り着いた。
「分かったわカンタ。コイツ、メスよ!」
アリスはサーベルボアがメスであることに気がついた。
サキュバスであるアリスの魅了対象は異性、つまり男にしか効かないのである。相手が女であれば弓は当たっても効果は無い。
「私の魅了は男ならみんなメロメロにして洗脳出来るの! だからコイツはメスよ!」
アリスがドヤ顔でサーベルボアについての考察を言うのに対し、カンタは首を傾げながら口を開く。
「みんなって言うな。俺は違う」
「今大事なのそこじゃねーから!!」
サーベルボアに尻尾をむしゃむしゃされながらも、カンタの天然発言に対しては、ツッコまずにいられなかったアリスであった。
はじめましてゴシといいます。
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