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第2話 勇者召喚

 私、ユノ、そして魔王様の3人は勇者に会うため、魔王城の地下深くにある宝物庫に来ていた。


「えっと、魔王様? 勇者に会いに行くって、言いませんでしたっけ?」


 魔王様の後をついて来た私は「何故宝物庫?」という疑問が残ったまま、ここまで来てしまったのだ。

 私が聞いてみると、ユノもその疑問を持っていたと言う。


「私もそれは聞きたいわ。勇者に会うって聞いたから、てっきり人間達の国に行くと思ってたもの。魔王様、どうしてここに?」

「いや、ここで合ってるぞ。不思議と思うだろうが、ここに勇者が来ると言われたんだ」


 言われた……って誰に?


 アリスが分からない顔を浮かべると、グレイは勇者がまだ来ていないことを確認し、事の詳細を2人に伝えることにした。


 魔王であるグレイが持つ宝の中には『予言の日記』という不思議な道具がある。その日記は名前の欄に名前を記入すると、書かれた名前の者に起きるであろう出来事が浮き出てくるという優れ物なのだ。


 だが、日記は全てを語ってくれる訳では無い。今回グレイの名前を記入して浮き出た予言は『今日は宝物庫で勇者と戦ったよ。すごく強かったな、わーい、わーい!』であったのだ。


「……って何ですか、その子供が書いたみたいな文章は? ホントですか、それ?」


 魔王様の口から「わーい、わーい」と聞けたのを心の中で「かわいぃー! きゃー!!」と叫んでいた私だが、気持ちを抑えて、予言の日記の内容について疑いを持ってると魔王様に話す。


「書いてあることは毎度馬鹿っぽいけど、予言の日記は本物よ、アリス。予言の日記はね、本当に起きる出来事を教えてくれるの」

「えぇ、そうなの? ……なんか胡散臭いな〜」


 ユノも予言の日記を信じていると言っていたが、私にはどうも信じられなかった。


 アリスが信じられないと思うのも無理ないと思っていたグレイとユノ。実際に体験してみないと分からないことだと思い、疑うアリスに説明し続けることはしなかった。何故なら、勇者が来て戦うと日記に記載されていたのだから次期そうなると思い、その時に備えて臨戦態勢に入っていたのだ。


「……ねぇ、ユノ。あの黒いグルグルって何なの?」


 金色に輝く金銀財宝がそこらじゅうに散らばる宝物庫の中で、私はその雰囲気にそぐわない異様な物を発見する。


 あんな黒いグルグル、部屋の中に入って来た時からあったかしら?

 お宝ってカンジじゃないけど……ってあれ、なんか光出したけど……何、何何何!?


 空に浮かぶ、真っ黒な渦。じっと見つめていると、急に雷を帯びたかのように光始める。そして渦の中から雷が落ちたかのような爆音と共に、宝物庫に新たな異物が召喚される。


「……ここは……どこだ?」


 召喚された異物が薄暗いモヤの中から声を発する。

 それと同時にグレイとユノは重心を下げ、いつでも動けるように身構える。


「えっ、どうしたの? 何、急に怖い顔して?」


 私は何が起こっているのか理解が追いつかず、2人が怖い顔をして見つめる、その突如出現したモヤがかった異物をぼーっと見つめていた。


「何者です!? 答えなさい!」


 ぼーっとしていた私だったが、ユノが背中に装備していた『双頭そうとう鎌鼬(カマイタチ)』を構え、異物に問いかけるのを見て、何か良くないことが起きているということにやっと気づけた。


「俺か……俺は勇、!?」


 ユノが問いかけるその異物が言葉を発すると、話しの途中でも容赦なく『双頭そうとう鎌鼬(カマイタチ)』の一撃をユノはおみまいする。

 その一撃で異物にかかっていたモヤは吹き飛び、その異物は正体を現す。


 角も尻尾もない、二本足で立つ生き物。

 黒い髪でシュッとした顔立ちに、吊り目で強面なオス。

 白のタンクトップにジーパンを履いたスタイル抜群のモデル体型。


 どこからどう見ても人間にしか見えないその男が、ユノの『双頭そうとう鎌鼬(カマイタチ)』を素手で受け止めているという異常な光景が、私と魔王様の前に現れたのだった。


 ユノが持つ『双頭そうとう鎌鼬(カマイタチ)』は2本のムチによる打撃と付与された風の精霊による斬撃を兼ね備えた、魔王軍が所有する宝具級武器『魔具』の1つである。


 そんな最上級武器から放たれた一撃を無傷で受け止める男を見て、グレイは確信した。


「やはり、お前が勇者か!」


 ユノの動き出しは早計そうけいだと思っていたが、その信じがたい光景を見て、予言にあったことが今まさに起こっているとグレイは受け入れることにした。


「俺か……邪魔だ!」

「!?」


 男はつかんでいた『双頭そうとう鎌鼬(カマイタチ)』を振り回し、遠くへ放り投げる。

 武器を持ったままのユノは武器ごと放り出され、宝物の山へと頭から突っ込むのであった。

 そしてグレイの問いに答えるため、男は口を開く。


「俺は茅ヶちがさきカンタ。神から魔王を討伐する依頼を受けてここに来た。だから攻撃するのは辞めてくれないか。いきなり現れて警戒するのは分かるが、俺はこの世界を救いに来た、神に選ばれた勇者なんだ」

「神……神だと?」


 カンタは自分の正体や目的を素直に話す。

 しかし、グレイにはカンタの言っていることが信じられないでいた。


 神が存在するということも信じられないし、その神がいたとして、何故カンタに魔王討伐を依頼するのかが、グレイには理解出来なかったのだ。


「魔王討伐の理由は何だ?」


 グレイはカンタに再び問いかける。するとカンタからは思いもよらない返答が返ってくるのであった。


「は? 勇者が魔王を倒すなんて当たり前のことだろ。何を言ってるんだ、お前?」

「当たり前のこと、だと?」

「悪い魔王を倒して世界の平和を取り戻す。それが常識だろ、違うか?」


 カンタは魔王を討伐するのは世のことわりだと、平然とした顔で言ってのけた。

 そのカンタの発言にはグレイもだが、隣で聞いていたアリスさえも口をあんぐりさせていた。


 今魔王様を悪いって言った? えっ、ホントに言ってるの、コイツ?

 私はカンタの言うことが正しいとは1ミリも思えなかった。


 魔王グレイ・マーベル・シュバルツは魔族の王としてトップに君臨している。

 だが、グレイは他者を力でねじ伏せるような悪逆非道な王ではなく、民を思いやる平和思想な優しい王なのだ。


 グレイの理念は『同族も多種族も争うことなく、まったりとした世界でありますように』という、いたって平和的な考えなのである。


 今世界でグレイに敵意を向けるのは、種族が違うと魔族を嫌う人間達とごく一部の私利私欲にまみれた魔族のみ。

 ほとんどの魔族はグレイを王として認め、その平和的理想を実現して欲しいと願っているのだ。


 それを初めて会ったポッと出のヤツが魔王様を悪いとか決めつけて!

 コイツ、絶対許せないわ!


「魔王様を悪いって、誰が決めてんのよ!」

「!? フン!」

「なっ!?」


 私はカンタを許せなくなり、魅了の能力『私が心を射止めちゃう(キューピットアロー)』をカンタに向けて撃ち込む。

 これをくらえばそんな馬鹿な発言も出来なくなるはず! と思っていたのだが、カンタはそばに刺さって剣を引き抜き、私が放ったハートの矢をその剣で軽々と振り払ったのだ。


「ぐぬぬぅ、このポッと出勇者め〜! ……どうしました、魔王様?」


 私が攻撃を弾かれたことに歯ぎしりしていると、その隣で魔王様が唖然とした顔でカンタを見つめていた。


「お前、そ、それは!?」

「攻撃は辞めて欲しいと言ってるんだけどな。ん、この剣がどうかしたのか?」

「アリス、ユノ! この部屋から今すぐ出ろ、急げ!」


 グレイはカンタが床に刺してあった剣を抜くのを見るや、急いで部屋から出ろと四天王2人に指示を出し、宝物庫の入り口まで走り始めた。

 宝物の山に埋もれていたユノはそれを聞き、急いで宝物庫から脱出する。

 しかし、アリスは急なことで何がなんだか分からなくなり、グレイの指示通りに動かず、足が止まっていた。


「コイツらは何を慌てて……な、何だ!?」


 グレイ達の慌てようを呆然ぼうぜんと見ていたカンタは、自分の手に持つ剣が急に光出し、この世界に召喚された時のような黒い渦がいきなり出現するのを目にするのだ。


「な、何だこれは? 吸い込まれて……」


 その突如出現した黒い渦はカンタを次第に吸い込んでいく。

 足を止めてまだ宝物庫の中で立っていたアリスは、その様子を見て大はしゃぎするのであった。


「へっへーんだ。魔王様の悪口言うからバチが当たったのよ! ざま〜みろ、ポッと出勇者〜」

「クッ、クソ……フン!」

「えっ、何よこれ……イタ、イタタ、アイタタタタタ!?」


 どんどん渦に吸い込まれるカンタをあっかんべーしながら見ていた私は、カンタが履いていたジーパンを縛っていたベルトで、腕を絡め取られてしまった。


「そのまま立ってろ。今そっちに行く」


 カンタはアリスにベルトを絡め、力ずくで体を吸い込む渦から脱出すると宣言する。


 私にこのまま引っ張ってろって言ったかしら、アイツ。

 無理、無理無理無理。痛い痛い、痛すぎる。辞めて、離して、手千切れちゃうから、これ!


「アリス、早く捕まれ!」

「魔王様!?」


 カンタのベルトを剥がそうと必死になっていると、魔王様が私に手を差し伸べてくれていた。


 私を助けようとして戻って来てくれたのね。

 魔王様ったら、優しいんだから……。


「……何してる、アリス!?」

「はっ、しまっ……あっ!」


 私はいつの間にか頭がお花畑になっており、魔王様が差し伸べてくれた手を握り忘れていた。そして、足の踏ん張りが効かなくなり、足が地面から浮くと、猛烈な速さで黒い渦の中へと吸い込まれて行くのであった。


 姿が見えなくなるまでずっと私のことをアリス、アリスと言ってくれていた魔王様。

 ホントに短い間でしたが、幸せでした。


 アリスとカンタは完全に渦の中へと吸い込まれ、グレイとユノの前から渦ごと消えてしまったのであった。


 宝物庫に刺さっていたその剣を抜いたことが、今後世界を大きく揺るがすことになると、渦に消えていったアリスとカンタは、まだ知るわけもなかった。

はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

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