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特典7「ジャンピング土下座なんていつの間に習得したんだ」


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アールス山脈も後半に入り、変わらぬ速度で攻略してゆく。

マーレの洞窟で手に入れたレベルの鉱石は見つけられないが、微量の魔力を含む鉱石は少なからず見つけることができた。

今回の山越えは大成功といっても過言ではないだろう。

換金するのが楽しみで仕方がない。


そういえば俺が洞窟に潜っているのを待っている間に、サクヤはマジックバッグを生成していたようだ。

俺にだけ荷物の負担がいかないように、とのことらしい。

ショルダーバッグよりも小さくベルトに引っ掛けられるほどの大きさなのだが、その容量はかなり大きいらしい。

いとも簡単に国宝級のマジックアイテムを作ってしまう妹にも、一緒に居るのが俺だから成立しているということをそろそろ教えてやらねばなるまい。


そこからまた数日の冒険を経て最後の山を下山。

半月ほどの時間をかけ、ようやくアールス山脈を超えることができた。

徒歩では二度と来ねえからな。


その夜。王都の1つ前の街、大都市カイルンに到着した。


「だはー・・・つっかれたー・・・。」


さすがのサクヤでもこの感想だ。

宿屋につくなりベッドに突っ伏してしまった。


「俺は少し情報収集してくるよ。サクヤはゆっくり休んでてくれ。」


「うん、今日ばっかりはそうさせてもらうー。ごめんね、お兄ちゃん。」


少し無理をさせすぎたかな。

12歳の身体で歩いて山頂を超えればそれは悲鳴もあげるだろう。

かくいう俺もなかなかに疲労が溜まっているが、換金のこともあるしな。

情報を得るには冒険者ギルドが1番だろう。



夜ということもあり、昼間とは違った賑わいのギルドに到着。

早速換金カウンターで鉱石をいくつか渡して鑑定してもらっている。

この待ち時間のうちにいろんな情報を聞き出すとしよう。


お酒が入った冒険者とはわりとなんでも話してくれる。

とはいえただというわけにもいかないので、俺の金で1杯ごちそうしながらだ。

仕事終わりの1杯というのは骨身にしみるんだよな。

わかりみがふかい。


このカイルンは王都との交易路を担っており、商業が盛んなようだ。

商人としての基礎知識を学べる学院もあり、年齢層は幅広い。

商業神様の故郷でもあるそうだ。

王都へはここから馬車で3日ほどの距離。

徒歩換算すると1週間から10日ほどといったところだろう。


他には名物のカイルン焼きは絶対に食べておいたほうが良いとアドバイスをもらった。

明日にでもサクヤと一緒に食べるとしよう。


そんなお話しをしていると鑑定が終わったとの知らせが入り、お金を受け取る。

案の定かなりの額で取引されているようで、山脈超え前の目標だった2人分の学費を超えることができた。

これであとは王都での生活資金を集めるだけだ。

とはいえ龍の住処で見つけた大きな鉱石もある。

小さな鉱石でこの値段なのであれば、あの大きさの鉱石であれば充分なお金になるだろう。


食材を買い足し宿に戻る最中、大きな武器屋が目に入った。

そんじょそこらの武器屋の大きさとは格が違う。

おそらく貴族とか上級冒険者御用達のお店なのだろう。


展示してある武器の中に、綺麗な緑色の水晶がついた黒い杖を発見。

値段を見た瞬間に目玉が飛び出るかと思った。

今の手持ちですら桁が1つ足りないくらいだ。


でもこの色合い、サクヤに似合いそうだよなあ。

入学祝いか、来年の誕生日にプレゼントできるように頑張ろう。



-----


翌日。

元気いっぱいのサクヤと共に王都への進軍を再開。

歩きがてらどんな杖がほしいかそれとなく聞いてみたところ。


「んー、杖なんて別になんでもいいよ。

お兄ちゃんからの初めてのプレゼントのこの杖に愛着もあるし。」


プレゼントのつもりはなかったのだが、サクヤの中では都合よく脳内変換されているらしい。

とはいえこんなに可愛い妹の装備がお粗末だなんてお兄ちゃん許せません。

やはり入学時にはあの杖を持たせておかなくては。


「お兄ちゃんは装備にこだわりとかあるの?」


「まあ正直に言うと俺もあんまりないな。

黒いローブとか羽織ってれば魔法使いっぽいかなとは思うけど。」


「ローブか・・・。杖じゃないんだね。」


杖・・・ねえ。

お金に余裕ができたのも事実だし、入学に向けて新調するのもありっちゃありだけどな。

自分よりもサクヤにお金をつかってあげたいんだよなあ。

言うと怒るだろうけど。


そんな会話をしていると、ライトが魔物の群れを発見。

サクヤとのコンビネーションもなかなかに良くなってきており、あっさりと殲滅。

戦闘終了と同時にサクヤに飛びつき、重さに耐えきれずに倒れ込む。

嬉しそうにサクヤの顔を舐め回すライト。

そんなにじゃれあえてうらやまし・・・ごほん。


「ところでサクヤ。

ライトもかなり大きくなってきたな。」


山脈に入る前は柴犬くらいだったと記憶しているが、今となってはゴールデンよりも全然大きい気がする。

そりゃあ12歳の女の子じゃ支えきれないって。

ずいぶんとレベルもあがってきたということだろう。


「もうレベル25まであがったからねえ。・・・乗れるかな?」


「・・・乗ってみたら?」


「ライト、いい?」


「バウッ!」


サクヤを背中に乗せると嬉しそうに尻尾を振りながら、もの凄い勢いで駆け出した。


「うわわっ!ライトすごーい!」


確かに凄いのだけど置いてけぼりにされてしまった。

無邪気なコンビだなホント。


さて・・・戻ってくる気配もないので『速度強化』して全力で追いかけるとしよう。


今までとは比べ物にならない速度で街道を突き進み、日が落ちる頃には王都までの道のりの70%くらいは来たのではないかと思うほどだ。

たった1日でこれだけ進むとは思いもしなかった。


さすがに不思議に思いライトを『鑑定』してみたところ、戦闘スキルの他に『疾走』のスキルを所持していることが分かった。

移動速度に上昇補正が入るスキルだ。

それはあの速さにも頷ける。

そしてレベルアップに伴い、さらなる進化が可能となっていた。


「ライト、『進化』!」


サクヤの声に同調し、光り始めるライト。

さらに大きくなってゆくその姿に驚きながらも、その美しい光景に目を奪われてしまった。

名前をつけてあげたり、レベルをあげてゆくことで上位個体へと進化していくのか。

これは勉強になった。


尻尾が3本に増え、身体は2メートルほどだろうか。

ライトが、ハイ・ウルフからキング・ウルフへと進化した。

この前までサクヤの肩にちょこんと乗っていたのと同一個体とは思えないな。


「ライトかっこいい!!

なのにもふもふでさいこお〜・・・」


まあサクヤが喜んでくれているのならそれでよしだ。

お兄ちゃんにもそのもふもふを味わせてほしいものだが、進化前でも近づいたら前足で手を叩かれたからな。

この大きさとなった前足で叩かれたら吹っ飛びそうだ。

むやみに近づくのはやめておこう。



-----


いつも通り街道から離れて野宿をしていたのだが、夜中にふと目が覚めてしまった。

普段はぐっすり眠れるのだが、珍しいこともあるもんだ。

仕方がないのでこっそりと抜けて辺りを散策することに。


しばらく歩いたところで、綺麗な湖を発見した。

夜空に光る月を水面に反射させ、辺りの静けさも相まって幻想的な風景だ。

カメラでも持っていたら思わず写真を撮っていそうだな。


しかしその静かな風景には居てほしくないような気配を察知。

湖の脇にある小屋から4人の気配がする。

俺でなければ冒険者パーティが小屋を見つけて休んでいるように映るだろう。

だがレベルアップした『探知』スキルでは情報も読み取れるようになっている。


3人からは期待、達成感。

残りの1人からは恐怖、緊張。

これはさすがに捨て置ける状況でもなさそうだ。



「ついに、ついにやってやったぞ!!

あの憎たらしい公爵め!!

令嬢を攫われたと知ったときの顔を想像するだけで笑いがとまらねえ!!」


「こんばんわー・・・いや、もうおはようございますか?お取り込み中失礼致します。」


「ッ!?このガキ、どこから入ってきやがった!?」


普通に扉からだわ。

お前らが無駄な妄想をしていたおかげで鍵を破壊したことにも気づかれずにな。


状況確認。

3人のうち2人が剣使い、1人は魔法使い。

囚われているのは公爵令嬢か。

綺麗な金色の髪だが、目隠しと口に貼られたテープで顔はまったく見えない。

そして両手足に縄で拘束されており、身動きをとるのも難しいだろう。


「そこのお嬢様、喋れないだろうから首だけ振ってくれ。

助けが必要か?」


俺の問いかけに全力で首を縦に振るお嬢様。

んじゃまあ助けるとしますか。


早速剣使い2人の後ろに回って首に手刀を打ち込む。

何が起きたかわからないくらいがちょうどいい。

魔法使いが詠唱を始め、小屋に白い魔法陣が展開された。


「詠唱してる時点で、おせえ。」


そのまま魔法使いにも手刀を打ち込み制圧完了。

やっぱりこの歳にして強すぎるな、俺。


ひとまず倒した3人から武器を没収して置いてあった縄で拘束。

そしてお嬢様を開放。

次第に見えていく姿に、思わず言葉をこぼしていた。


「・・・綺麗な目だ・・・。」


綺麗な金色の髪によくあう蒼い瞳。

幼いながらに美しさを感じる風貌の少女は、すべての拘束を解くと顔を赤らめつつも。


「あ、ありがとうございます・・・。お名前をお伺いしても・・・?」


「俺はタクミ。元貴族ですが、今は平民です。」


「わたしくはシャクマン・フィン・オーグレイ公爵が次女、リズベット・カーレ・オーグレイと申します。

タクミ様、危ないところを助けていただき心より感謝申し上げますわ。」


スカートの両端をつまみ、エレガントにお辞儀するリズベット様。

さすが公爵令嬢。

うちみたいな田舎貴族とは育ちが違う。


ひとまず王都に連れ帰るということで、サクヤと合流することになった。



-----


「おはよう、お兄ちゃ・・・んんん?その子はだれかな!」


「オーグレイ公爵様のご息女、リズベット様だ。」


「申し訳ありませんでしたーーー!!!!!」


俺の言葉を聞いた直後にベッドから飛び降りながら地面に土下座の形で着地する妹。

ジャンピング土下座なんていつの間に習得したんだ。

しかし寝ぼけながらの発言とはいえ、爵位の1番上に居る公爵様のご令嬢に対してその子呼ばわりとは。

貴族出身なだけあり、公爵という地位がどれほどに高いのかを理解できるワンシーンだな。


「だって一緒に寝てたお兄ちゃんが、起きたら別の女の子と一緒に居るんだもん!

そりゃびっくりもするよ。修羅場だよ。」


言いかたぁ!!

語弊が生まれるような発言はやめてほしいものだ。

ひとまずライトの背中にサクヤとリズベット様を乗せて王都に向けて移動中の現在。

王都についてや学院のこと、そしてお互いのことなどたくさん話すことができた。

リズベット様は俺と同い年で、来年魔法学院に入学するのだそうだ。

俺と同級生ということになる。

入学前に公爵令嬢と知り合えたのは大きいな。

平民という身分で公爵令嬢と仲良くすると、周りの貴族にどんな反応されるかなんて考えたくもないが。


昼も超えたところで飯にしようと止まったのだが、そこで気づく。

普段俺達が食べてるような冒険者飯を食べさせていいものか。

公爵家の料理なんて、高級感あふれるものだろう。

それを食べ慣れているであろう方に、こんな屋外で作った料理を良いのだろうか。

などと考えているとリズベット様の方から食べてみたいとおっしゃってくれた。

そういうことなら全力でつくらせてもらおう。

まあ味付けはサクヤ担当なのだが。


「お待たせー!サクヤちゃん特製ポトフだよ!」


屋外での料理が多いからか、サクヤの料理レパートリーは鍋で煮るものが多い。

炒め物と合わせて全体の8割を占めているだろう。

まあどれも美味いからいいのだけど。


「いただきます。・・・〜ッ!」


一口食べて目を見開き、美味しそうに口をおさえるリズベット様。

お口にあったようでなによりだ。


そんな食事も終えて片付けをしていると。


「お嬢様ー!!」


血相を変えて馬を走らせる執事服の男性がこちらに向かってきた。


「アラン、良かった。無事でしたのね。」


どうやらリズベット様の執事のようだ。


一瞬犯人と勘違いされて捕らえられそうになるも、リズベット様の一喝で事なきを得た。

謝罪ののち、旦那さまへ報告をしたいと同行を求められて王都へ再出発。


公爵令嬢を野宿させるわけにはいかないと、馬とライトに俺が生身で並走した甲斐もあり。

日が落ち始めた頃。


俺達はようやく王都へと到着した。



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