特典5「それでは皆さんご一緒に」
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リーベの街での1泊を終え、再び王都へ向けて出発した俺達。
そこに新たな仲間も加わった。
「『召喚』ーライト!!」
地面から赤い魔法陣が広がり、陣の中から小さなウルフが現れた。
まだ生まれたばかりの姿ではあるが、名前をつけたことによりハイ・ウルフへと進化したようだ。
立派な尻尾が2本生えている。
魔物のことはよくわからないが、主の魔力によって色々変化するのだろう。
俺もそのうち契約でペットを飼うとしよう。
今はサクヤの肩にちょこんと乗っかるライトだが、『鑑定』スキルによると成長すると2メートルを超える個体も居るらしい。
俺達と共に戦場を駆けるようになるのも時間の問題かもしれない。
MPこそ少ないものの、すでに攻撃魔法をいくつか覚えているあたり楽しみだ。
レベルも存在しているので俺達のフォローでどんどん強くなることだろう。
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さてそんな小さな仲間を加えての楽しい旅は早いもので。
出発してから5つ目の街、大都市トクルーへと到着した。
ここを出るとアールス山脈があり、それを超えたところに街が1つ。
その次の街が王都だ。
最初に出発してから3ヶ月ほどだろうか。
かなりいいペースでここまで来ることができている。
何よりレベルアップも戦闘経験も多く積むことが出来た。
俺が40に到達、サクヤも38レベルまであがり、ライトも10レベル。
早くも柴犬くらいの大きさにはなっている。
尻尾のもふもふ具合がたまらないのだが、俺にはあまり触らせてくれないのが悲しい。
さて、この街に寄ったのは補給ももちろんあるのだが。
何より冒険者ギルドがあるのだ。
ようやく溜まりに溜まった素材を売りさばくことができる。
とはいえ一気に頼んだら迷惑すぎるので、必要最低限だけにするつもりだ。
この街に長居する理由もないしな。
あとは冒険者登録も忘れてはいけない。
ついに俺達も冒険者デビューだ。
思い起こせばここまで長かった。
途中立ち寄った街にも冒険者ギルドはあったのだが。
出自不明の子どもだけでは登録ができないと断られたり散々だったからな。
このトクルーは大都市に分類されており、これくらい大きいところじゃないと子どもだけでは登録できないのだそうだ。
田舎に厳しい制度だとも思ったが、そもそも田舎の冒険者の絶対数が少ないのだから仕方がない。
農家をやっていたほうがよっぽど安全だしな。
先に宿屋で1部屋借りて寝床だけは確保。
荷物はないのでその足で冒険者ギルドへ。
さすが大都市というべきか、今まで見てきた街よりも広く多くの建物が並んでいる。
人の数も圧倒的に多い。
これだけ盛んなのはアールス山脈が鉱物の宝庫という理由もある。
まあ俺達にはあまり関係のない話しだが、一攫千金を目当てに近くのトクルーを拠点にする人が多いらしい。
さて、そんなことを考えているうちに冒険者ギルドに到着。
なんというか荘厳な佇まいだ。
うちの実家よりでけえ。
サクヤと共にわくわくしながら扉を開けると。
中には冒険者、冒険者、あんど冒険者。
そりゃそうか。
丸い机に数人で座ってお酒を楽しんでいる人たち。
受付嬢から依頼を受けたり、依頼達成の報告をする人たち。
依頼の中から自分にあった依頼を吟味する人たち。
と、なかなかに冒険者ギルドっぽい。
・・・そりゃそうか。
俺達はギルドに入って右奥の登録受付だな。
サクヤにこっちだと合図して歩き出すと、目の前に大きな男が現れた。
見た目は筋肉質な20代中盤のオラオラ系。
力に自身のありそうなやつだ。
おっ?
異世界ファンタジーから離れて久しいから忘れていたが、これは冒険者ギルドお約束のあれか?
「おう、坊主ども・・・。」
これはあれだな!
お約束のチンピラにからまれて撃退するイベントだな!?
俺わくわくすんぞ!!
「その歳で冒険者とは気概があるな!
見た感じ魔法使いっぽいが、早く良い杖を買えるようになるといいな!
ハッハッハ!頑張れよ!」
「なんか思ってたんとちがーーーーーう!!!」
「えっ、どうしたのお兄ちゃん。」
そんな見た目としっぶい声のくせに、めちゃくちゃ良い奴じゃねえか!!
紛らわしいにもほどがあるだろ!
と言いたい気持ちを必死におさえ、ちょっと残念な気持ちになりながらお礼とお辞儀だけしていざ受付へ。
「いらっしゃいませ!
冒険者登録ですか?」
「はい、僕と妹の2人です。」
「かしこまりました。
それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いいたします。」
そう言い2枚の紙を渡してくれる受付嬢。
失礼ながら綺麗とは程遠いといいますか。
クラスに1人は居るぼっち系女子というか。
見た目だけで言うと、あまり明るそうな感じではない人な印象だ。
「ああ、カミラちゃん今日も美しい・・・。」
「あんな小さい子達にも優しい笑顔で・・・。」
「結婚してくれ・・・。」
「なんか思ってたんとちがーーーーーーーーーーう!!!!!」
「えっ、お兄ちゃん大丈夫?情緒不安定なの?」
めちゃくちゃかわいい妹に心配されちまったじゃねえか。
この世界の見た目基準はどうなってるんだ。
たしかにあれだけ美しいレビス様の見た目が悪いと言われていた発言である程度は覚悟してたよ?
それでもなんかさあ・・・ちがうじゃん・・・。
お美しいレビス様、俺は一生ついていきますからね。
気を取り直して用紙に視線を戻す。
必要なのは名前と年齢、そしてジョブか。
ジョブは職業ではなく、戦士や魔法使いといった括りのことだろう。
ここまでは迷う箇所なし。
問題だったのは最後の欄。
使用できる魔法の種類を記入してください。
・・・どれを書くべきなんだ・・・?
やりすぎなスキルを書くのは論外。
とはいえ料理とか書いても戦闘とは全く関係ないし。
サクヤも同じことを思ったのか、ペンが止まっていた。
目があうと自分よりお兄ちゃんのほうが書きづらそう・・・といった目をされた。
間違ってないのだが憐れむ目を向けるよりも、せめて苦笑いでもしてほしかったものだ。
結局サクヤは召喚魔法と風の攻撃魔法
俺は土属性補助魔法と回復魔法と記載しておいた。
回復スキルは今造るからちょっと待ってて。
「魔法使いお2人にしては理想的な組み合わせですね。
それでは最後に、こちらの水晶に手をかざしていただけますか?
それぞれの魔力をギルドカードに登録させていただければ完了となります。」
この水晶、所持魔力量によってぶっ壊れたりしないよな・・・?
もはや亜神レベルの魔力を有している俺が触っても問題ないものなのだろうか。
先に触ろうとしているサクヤも大概な量を持っているので心配だが、おそるおそる手をかざすと。
水晶が眩しさを覚えるほどの緑色の輝きを放った。
周りの冒険者から驚きの声があがった。
どうやらとんでもない結果だったようだ。
続いて俺が手をかざすと。
何も起きない。
ん?
もう1度手をかざす。
何も起きない。
あっれれー?おっかしいなー?
試しに魔力を軽く流してみる。
何も起きない。
・・・いや壊れるとかよりもよっぽど良いんだけども!!
周りの冒険者たちが妹で凄い結果だったのだから兄貴も相当な結果になるのだろう的な感じで野次馬になってたのに、「えっ、なんかきまずっ」みたいな顔になっちゃってんじゃんよ!!
「ええっと・・・これにて登録は完了しました。」
ああもう、これはあれだ。
3回目だ。
それでは皆さんご一緒に。
「なんか思ってたんとちがーーーーーーーーーーーう!!!!!!!」
冒険者たちと俺の絶叫がギルドの外にも響き渡った。
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そんなこんなで冒険者登録が終了。
定期的に依頼を受ける必要があるものの、基本的には身分証代わりに持っている人が多いようだ。
とりあえず最初の1回目の依頼としてゴブリンの討伐クエストがあったのでその場で受注。
そしてアイテムボックスから素材を取り出し即達成。
これで数カ月は依頼を受けなくても権利剥奪にはならない。
追加で他の素材も換金をお願いし、お金を受け取った。
ひとまず今日はそこまでで宿に戻ることにした。
「なんか冒険者ってこんなんで良かったのかと思うわ。」
「ぷっ・・・あははは、水晶壊れるとかじゃなくて良かったじゃん!」
それもそうなんだけども。
あのあとサクヤには冒険者パーティへの勧誘がいくつかあり。
なんの結果もでなかった俺には一切の声がかからずだった。
まあ妹さんが来るなら荷物持ちとかでも、と気をつかわれたのが余計に辛い。
「王都に行くのにパーティに入ってもしょうがないじゃん。
いくら声をかけられても結果はお兄ちゃんと変わらないよ。」
「そうなんだけど、やっぱりこのステータスを持っている身としては引っ張りだことかをほんの少しだけ期待をしてしまったりね?
まあ実際見せるわけにもいかないから仕方ないんだけどさ。」
「お兄ちゃんにはアタシが居るんだからいいのっ!」
それもそうか。
俺のすべてを知る唯一の人だしな。
知ったうえで変わらず接してくれているんだ。
本当に感謝しないとな。
さて、冒険者はFランクから始まりSSSランクまであるのだそうだ。
そこまで到達するにはどれだけの功績をあげればいいのやら。
とはいえ俺達は魔法学院に入学するために来ているのであって、特段冒険者を目指しているわけではない。
金策の一環というだけだ。
と言ったものの、サクヤと一緒に仲良く旅をするのもなかなかに楽しいと思っている自分も居る。
2人とも学院を卒業したら、今のようにまた旅をするのもいいかもしれないな。
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そういえば先輩冒険者に杖の新調ができるといいと言われていたな。
実際今の手持ちの素材をすべて換金すれば、学費2人分のうち70%くらいは溜まっていると思う。
サクヤは俺より1年あとに入学することを考えれば十分に購入する余裕はあるのだが、これから王都で家を借りて生活をしなくてはならない。
なおかつ俺が学院に通いながらでどこまでお金を貯めることができるか分からない以上、今の段階で高い買い物をしてお金を減らすのは得策じゃないんだよな。
まあぶっちゃけ俺もサクヤも無詠唱魔法の使い手なので杖は必要ないっちゃないんだが・・・。
魔法使いの格は杖で決まると言われるほど、装備は重要視されている。
入学時点でこの田舎の武器屋の中でも1番安い杖では笑いものもいいところだろう。
それまでにはなんとかしなくちゃいけない。
鉱物の宝庫と呼ばれるアールス山脈でどこまで資金を得られるかが勝負。
これに関してはサクヤもやる気満々だ。
とはいえ俺が学院に行っている間はソロで冒険者活動をして少しでも生活の足しにすると言い張っている。
お金はあればあるだけ越したことはないが、1人で無茶をしないか心配だな。
杖に関しては、余裕ができてから買うということで。
その後は何日かに分けていくつかの素材の換金も終え、山脈超えのための食材の買い足しも完了。
これで準備は整った。
「それじゃあ、行こうかサクヤ。」
「いざ、アールス山脈!」
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